何もいらない
テーブルの上に重たい音を立てて置かれた大きな袋を見て、私は顔を顰める。「ちょっと」と言う暇も与えられず、兄の手は忙しなく動き、次から次へと出てくる食べ物によって小さな山ができていた。
「お腹空いて……」
「ない」
「いら……」
「ないから」
兄が顔を覗き込んだ。ほんとうに?とでも言いたげな表情をしていて、私はその、あからさまな質問に答えるように“ダイエット”という言葉を宣言する。
すると、兄は「嘘だあ!」と、笑いながら言った。
「あのなぁ…ダイエットってのは、すごく大変なんだぞ?意思がないとできないし、長期間続けなくちゃいけないマラソンみたいなものなんだ」
「へぇ…それはすごいね。でも、もう決めたから」
「お兄ちゃんの持ってきた食べ物は、もう絶対受け取らない」
置いてあるコーヒーを手に取った。横から聞こえる小言をかき消すように、カフェインを喉に流し込む。まぁ、冷めていたけれど、美味しい。
その様子を見て、兄は「あ」と声を漏らし、そのまま黙り込んでしまった。何?と催促を促すと、返事が返ってくる。
「それ、僕のだけど」
4/20/2024, 5:24:32 PM