わをん

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『懐かしく思うこと』

いつもの遊び場である落ち葉の降る森に辿り着くと見知らぬこどもがひとりぽつりと佇んでいた。ここに来るのは私ぐらいのものだから嬉しくなった私はその子に駆け寄った。
「あなた、角があるのね?どうやって付けたの?」
頭に角がある子は突然話しかけられて少し驚いた様子を見せたけれど、答えてくれた。
「……生まれつきだ」
「すごい!かっこいい!」
一目でその子を気に入った私は森のいろんなところを案内した。毎年きれいな色のキノコが生えるところ。キツネの巣穴やクマの住処。シカが落とした角を集めたところ。
「私にも角が付けられたらお揃いになるのに」
言うとその子はなぜかもじもじとして、私に身につけていた指輪をくれた。ぴかぴかの土台にキラキラした石が嵌まったきれいな指輪だった。
「俺はもう行かないといけない。でも、また来てやる。これはその約束のために渡す」
「また遊べるのね!ありがとう!」
眩しいものを見るような目で私を見たその子とは日暮れに別れてそれっきり。けれど指輪はあの時から変わらずきれいなままにしわしわの私の指に光っている。
いつかの約束を懐かしく思いながらしばらくぶりに森へと入ると、落ち葉の降る森にはひとりの人がぽつりと佇んでいた。
「すまないな。遅くなってしまった」
私よりも年若く見えるその人には頭に角が生えていた。長い時を経て約束が守られたことに胸があたたかくなる。
「また会えてうれしいわ」
あのときのように駆け寄る気持ちでゆっくりと歩み寄ると、彼は微笑んで手を差し出した。その手に指輪の嵌まった手を取ればこの世界とはそれきりになると、なぜかわかっていた。私は落ち葉の降る光景をひとときじっと見つめながら、決意が固まっていくのを感じ取っていた。

10/31/2024, 5:46:55 AM