heart to heartを忘れずにな
腹を割って話しをし、心を通わせる
そうすることで相手を知ることができ、また、自分を知ってもらえるんだ
相手に心を開いてほしければ、まず自分が心を開くこと
それが大事だ
昔、父はそう私に教えてくれた
私はこれまで他者と接するのに、その言葉を大切にしながら生きてきた
まあ、世の中にはどうしても合わない人間というのもいるが、そういう相手に対しても、できるだけ、どういう人なのか知る努力をしてきたつもりだ
だがまさか、その言葉を人間以外に適用する日が来ようとはな
目の前には、傷ついたゴブリン
正直、彼に我々人間の言葉が通じるのかわからないが、私は外国の別言語の人ともなんとかコミュニケーションをとった実績がある
ゴブリン相手でもなんとかなるだろう
大事なのは気持ちを隠さず、心を通わせることだ
私は回復薬を手にゴブリンに近づいた
当然、あちらは警戒している
ゴブリンは基本、こちらが何かしない限り、あちらから攻撃してくることはない
昔は誤解されていたこともあったが、今ではそういう生態であることがわかっている
そして傷を治すためには近づかなければならない
しかし近づけば、こちらが危険だ
ゴブリンは、こちらに攻撃の意思ありと判断すれば即座に身を守るため、襲い掛かってくるだろう
回復薬など知らないはずなので、まずはこれがどういうものなのか、知ってもらう
私はナイフで自分の腕を切った
ゴブリンは不審がっているが気にしない
続けて回復薬を自分の腕にふりかける
傷はみるみるふさがり、傷跡も残らない
さすがは高い値段で買っただけのことはある
効能が強い
その後私は、身振り手振りでゴブリンに、この回復薬で君の傷を治したい、と伝えた
ゴブリンは私の伝えたいことを理解してくれたようで、こちらに近づいてきて、胸をそらして傷を見せた
これは痛そうだな、すぐにでも治してやりたい
私は早速、回復薬をかけた
しみた痛みでゴブリンは少しうめいたが、傷は無事、すぐに塞がった
ゴブリンは何事かを言うと、去っていったが、きっと礼を言ってくれたのだろう
それから数年経っただろうか
私はガルーダという怪物と戦っていた
状況は危険
全身傷だらけだが、回復薬は品切れだ
相手はまだまだ余裕だろう
しくじったなと思った
簡単な採取の依頼だと油断したが、まさかガルーダの生息地だったとは
必殺の体勢に入るガルーダ
本気の一撃だ
これをまともに受けたら死ぬ
だが、もう体がうまく動かない
最悪の結末を覚悟した私だったが、その時、何者かが魔法でガルーダを叩き落とした
その魔法は強力で、ガルーダは一撃で息絶えたのだ
驚く私が魔法の発生場所を見ると、魔道士の装束を身に着けた大柄なゴブリンが立っていた
私は即座に気づく
彼は、あの時私が回復させたゴブリンか!
あの時のゴブリンが近づいてきて、大丈夫かと聞きながら、回復薬をかけてくれた
私は礼を言いながら、大丈夫だと答えた
聞けばゴブリン……グルススは、私が助けたあと、それがきっかけで冒険者を目指し、鍛錬を重ねたのだという
言葉も必死で勉強し、周りのバカにするような目にも負けず、実力で周りを黙らせてきて、今では彼をバカにする者はなく、むしろ頼りにされているのだそうだ
そうか、噂でそんなゴブリンがいると聞いていたが、君だったんだな
私がきっかけとは、嬉しい限りだ
グルススは、ガルーダの目撃報告のあるこの場所に私がいることを知り、急いで駆けつけてくれたそうだ
heart to heart、か
私のあの時の行動は間違いではなかった
グルスス、君のような立派な冒険者が誕生するきっかけになれた私は、誇らしい気分だよ
心の底から、そう思う
そして、助けてくれてありがとう
2/5/2025, 11:34:55 AM