雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

Open App

―ありがとう、ごめんね―

時刻は午後5時という夕暮れ時、学校の屋上にて。
「僕は君のことが好きだ。
だから、もし良ければ付き合ってください。」
私は、この学校のプリンスとも言われる
藍沢くんに、告白されていた。
彼がこの学校のプリンスと呼ばれる理由は、
着崩すことなくカチッと着た制服と眼差しから
滲み出る真面目さと、学年トップを誇る成績、
そして何より、紳士並みの優しさからだ。
放課後、私の靴箱を開けると中に入っていた
「5時に屋上へ来てください」と丁寧な字で
書かれたメモがまさかこのパーフェクトボーイの
書いたものだとは、夢にも思わない。
さて、対する私はどうだろうか。
一応、校則から外れることなく
学校生活を送っているが、
彼のように真面目でもないし、
成績も誇れるほどでないし、
特別優しいわけでもない。
顔も大して良くなくて、パッとしない私が、
彼と釣り合えるわけがどこにあるか。
彼の隣に合う人なんて、他にたくさんいる。
『学校一の美女』、『性格美人の女神様』、
『誰もが認める優等生』…
私は、彼の告白を断ることにした
でも、目を見てきっぱりと断るのは、
流石に勇気がなくて、
やや俯きがちになって言った。
『…貴方の気持ちは素直に、すごく嬉しい。
…でもね…きっと、私じゃ釣り合わないと思うの。
貴方に似合う人なんて、他にたくさんいるわ。
探さずとも見つかる程に。
そんな中で、絶対に私である必要はない筈でしょう?
だから…ありがとう、ごめんね』
でも、やはり目を合わせないのは違う気がして、
最後は彼の方を見て微笑んだ。
申し訳ないとでもいうような、微笑みを浮かべた。
そして、『では』と踵を返そうとしたのに、
彼はこんなことを言った。
「もし仮に、君の言う通り…
つまり、僕の隣に合う人がたくさんいたとしても、
その中から僕が好きになったのは、
他の誰でもない、君なんだよ。
…もう一度言う。
僕は、君のことが好きだ。
君に何か起こる前に絶対守るし、助けるから、
僕を信じて欲しい。
だから…僕と、付き合ってください、」
『茜さん』と、彼は私の名を呼んだ。
彼の、少しかたい表情が、緊張じみていて、
余裕に満ちているようなことはなかった。
彼の真剣さは、今、私に向けられているんだと、
本気で感じた。
近いようで遠い、茜色の夕日が、
濃く、深い藍色の空に押し潰されるように、
飲まれるように沈んでいく。
まるで私と藍沢くんを
そのまま表したかのような空の下、
彼を信じてみたい衝動に駆られる。
私は目を閉じ、深呼吸をした。
そして、目を開け、彼の方を向いて微笑んで、
『こんな私で良ければ、喜んで』

12/9/2022, 11:21:28 PM