#45 やりたいこと
雨に愛を、月に願いを、
世界の終わりに祝福を。
「ねえ、船長はどうして船に乗ろうと思ったの?」
「家を出たかったから」
「え、それだけ?」
「きっかけはな」
ここは船の上。
丸い地球とは違い、大陸ひとつを海で囲んだ平面でできています。それに、海と言いつつ塩っぱくなかったり、雨が海の一帯でしか降らなくて天気は晴ればかりであったり。
二人はそんな平面だからこそあるはずの世界の終わり(物理)を探して船旅をしています。
「先祖が世界の理を解き明かそうとしてたのは最初に話したな」
「うん。その調査を船長は引き継いだんだよね」
「ああ。残ってた記録では海に限らずあちこち旅をしてたんだ。その経験を活かして商売始めたやつが出てきて、それが今の俺の家ってわけだ」
「旅をやめたのに、記録は残してたの?」
「どうも、旅を続ける家族を支える目的もあったみたいだな。要は本拠地ってことだ」
「仲が良かったんだね」
「まあ、結局店だけが残ったけどな。そこそこ歴史があるせいで窮屈で退屈で、俺には物足りなかった。店の始まりがそれだから旅を引き継ぐって言えば円満に家を出られるって思ったんだ」
「そうだったんだ」
「お前もだろ?」
「え?」
「初めて親父さんの店に入ったとき、顔にデカデカと『つまんない』って書いてあったぞ」
「ちょっと、なにそれ!違わないけど!」
憤慨するボクを見て、船長は楽しそうに笑ってた。
だからボクも、いつの間にか一緒に笑っていた。
(#42の二人)
6/10/2023, 7:08:03 PM