もきゅもきゅ、と音がした。
なんだろうか、この音は。
恐怖を感じて外に出てみれば、権力者がなんともない顔で立っていた。
「…………権力者」
「やっほー、演奏者くん。変な音したね〜」
故意的でなければ鳴りそうも無いような音を聴いてるのに、彼女はいつも通りの顔を僕に向けた。
「………………どこから鳴ったか分かるかい?」
「ん〜、知らない。というかどうでもよくない?」
「なんで」
「ここはユートピアだよ? 変な音くらい鳴るでしょ」
今まで鳴っていなかった音だろう、とツッコミたいが、彼女は権力者だ。もしかしたらもう既に音の発生源とか何もかも知っていて、何らかの理由で僕に真実を伝えたくないのかもしれない。彼女は僕のことを敵視しているような素振りもあるから。
「…………そうかい?」
「そうだよ〜」
そんなふうにニコニコと笑顔を見せるきみの気持ちが分からないけれど、まぁ大体そんなもんでいいだろう。
演奏者くんが出てくる数分前。
『なにか』がいた。
ボクが見たことないような、元々この世界にいなかったそんな物体。
もしかして、もしかして、コレも『迷い子』なんだろうか。
体を左右に揺らしながらボクの方を見つめる『なにか』が不意にこちらに向かって駆け出してきた。
スライムのような形をしていた『なにか』がボクの方へ向かって来ながらありえないとこが開いた時、ああこれはダメなやつだと悟った。
意志を確認できるようなものじゃない。殺さなくちゃいけない。
ガシッと掴んで雑巾を絞るように捻れば『もきゅもきゅ』なんて音がして。
絞れたそれが何故か蒸発した時、演奏者くんが外に出てきた。
彼とそつなく会話をしながら、例え異形の姿であったとしても、『迷い子』を殺しちゃったんだな、と実感した。
きっと偉い人に怒られるだろう。でも、殺さなかったらボクが、演奏者くんが、そして他の仲間が殺されていたかもしれない。
そう考えると、ボクの行いは誰かの為になったんだな、なんて思った。
7/26/2024, 11:19:55 AM