たろ

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※閲覧注意※
拗れかけの別れ話や性欲を彷彿とさせる表現があります。
好きだから離れなきゃとか、思い込み激しめだったりします。
若干のモラル逸脱があります。


【さよならを言う前に】


離れるべきだと解っているのに、傍に居たいと心は藻掻き喘ぐように叫んでいた。
(離れなきゃ。)
気遣わしげな視線は、憐れみに見える。
そんな筈は無いと思っても、嫌な声が耳の奥底から嘲笑してくる気がした。
(いっその事…。駄目だって、巻き込みたくないんだから。決めたのに!)
身近な優しさに縋れる程、もうこの身には価値がない。
(自業自得、馬鹿だったのは自分。解ってるだろう?)
何を、贅沢な葛藤などしている気になっているのか。

「アホらしい。…そう言うの、要らないから。何、グチャグチャこねくり回して考えてるのか知らないけどさ!」
こっちを見ろとばかりに、両頬に手を置いて頭をガッチリと掴まれる。
「オレが、一緒に居たいの!悪いけど、かっちゃんの気持ちは一切関係ない話!オレは、離れる気無いよ。かっちゃんは何も悪くない。今までもこれからも、かっちゃんはかっちゃんだから。だから、一緒に居させて。」
強引な論調も我儘を装った気遣いなのは、もうずっと前から知っているのに。
(甘えちゃ、駄目だって…。)
何処までも燻る心を揺さぶってくるのだ。
(一言、言えば終わり。終わらせなきゃ。)
喉が干上がって、声が出て来ない。
「かっちゃん、もっと早くちゃんと言うべきだった。オレがのんびりしてたから、ごめん。大好きだよ、かっちゃんの事。きっと生まれた時からずっと好き過ぎて、自覚するの遅くなっちゃった。気持ち悪いって言われたくなくて、離れたくなくて、オレもグチャグチャしてた。2人で一緒に、グチャグチャを解して、オレ達なりの答えを見つけられたら良いなって、考えてる。どうかな?」
欲しい言葉ばかり的確に言えるのは、勝手知ったる仲だから。
「…我ながら最低だわ。傷心に付け入って、目茶苦茶後悔してる。さっさと白状しとけば良かった。」
ガサゴソとトートバッグを漁る手が取り出したのは、くしゃくしゃの雑誌の束。
「気持ち悪いなら、そう言って。思春期からこっち、ずっとお世話になってます。って事で、これはオレが拗らせてる証拠ね。引っ叩いても良いよ。グーパンでも致し方ないかな、と思ってる位には自覚しています。」
性欲の対象を匂わせる言い回しに、まさかと思うと同時に、グラグラと心が揺れるのを感じて、目眩がする様だった。
「あのね、かっちゃん。オレを選んでよ。後悔させないから。アイツのこと忘れられるくらい、オレは愛せるよ。愛してる。」
また、流されてしまう。
駄目だと解っているのに…。
結局、縋り付いて足を引っ張る愚者にしかなれない。

8/20/2024, 10:53:58 PM