突然の君の訪問。
ノックされたので、家の扉を開けるとそこには大鎌を持った死神がいた。
ニコニコと笑いながら、私に手を振っている。
私は静かに扉を閉めようとすると、それを阻まれた。
ギリギリと扉が悲鳴を上げる。
「お帰りください」
「いやいや、やっと見つけたんだぜ?帰るわけないだろっ」
お互い力を込める。いい加減、扉が潰れてもおかしくはない。
「セールスはお断りです」
「セールスじゃねぇーよ、バーカ」
とうとう扉が壊れてしまった。壊されたので、請求をせねば。
「扉の修理代、払ってください」
「払わないし、もうこの世から去るからいいじゃん」
私の横をするりと通り抜け、家の中にズカズカと入ってきた。
そして、部屋を見渡し、ベッドの上に座る。
持っていた大鎌を死神自身の隣に立てかけた。
「突然すぎるんですけど」
「よく言われる」
ケラケラと笑う姿は幼い子供みたいだった。
「普通は死に際なのでは?」
「いろいろあるのだよ、キミ」
「何それ、訳わからない」
「わからなくて結構、人間にわかられてたまるかってんだ」
肩をすくめて、やれやれと言う。――ムカつく。
私は、壊れた扉をとりあえずはめてみる。しかし、元に戻るわけがない。
深くため息をついて、そのまま放置した。
そして、死神の前にまで行き、仁王立ち。
「私、まだまだすることが山ほどあるんですけど?」
「あー、そう言うやつ山ほど見てきた」
「だったら――」
「決定事項は変えられない」
大鎌を喉元に突きつけられた。ひんやりと冷たい感触が伝わる。
今にでも、刈り取られそうな感じ。ごくりと唾を飲んだ。
「わがまま言わない、言わない。痛くないし、大丈夫」
にっこりと笑うが、目は笑っていない。私は逃げようとして、背中を向けた。
一瞬だった。走馬灯が巡ってくる。そして、死神の声が聞こえてきた。
「よかったなぁー、クソみたいな世界におさらばできて。何がやることだよ。上司の顔色を伺い、後輩から仕事を押し付けられる、残業の毎日。ヘラヘラ笑って、不満も言わずにただ仕事するのみ。みんなが、お前をただの便利屋だと思っている。別にお前が一人いなくなったところで、誰も困らない。代わりなんていくらでもいる」
ぺらりとページを捲る音と文字を書く音が聞こえる。
「今終わっていいんだよ、お前は。クソみたいな世界でよく頑張ったと思う。見ていて、こっちは胸糞悪い。よく生きてこれたよな、今まで。まぁ、俺が言うのもなんだけど、来世は幸せになっ」
背中をポンっと押された気がした。
すると、体が軽くなった。まるで、鎖から解き放たれたような。
――突然の死神の訪問。それは、誰にでもあり得ることだということ。
8/28/2023, 12:42:32 PM