小鳥貴族

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 神様に気に入られた人は早く死んでしまう。あの人はもうこの世のどこにもいない。あの人は神様に気に入られたから、連れて行かれてしまったんだ。そう思わないと、あの人のいない世界で生きていくことはできなかった。後を追うことも考えた。だけど私は、神様に嫌われているらしい。三回も追い返された。残された選択肢は一つ。生きていくしかない。
 そういえば、あの人の遺書に「上手くいかなくたっていい」と書いてあった。つまりあれは、「上手く死ねなくても、また死ねばいい」という意味だと思っていたが、違ったようだ。何回も死に損なっていれば嫌でも分かる。死ぬのは苦しい。その後、無理に優しくされるのも、怒られるのも辛い。私は神様にもあの人にも愛されていなかった。
 あの人は私に暴力を振るうことに生きがいを感じていた。そんなあの人を愛せるのは私だけだと思っていた。だから、あの世で神様に愛想を尽かされ、私を待っている。そう思っていたのに、ふと気付いた。私ばかり辛い想いをしている。許せない。なんで、私ばかり罵倒を浴びせられ、殴られ、蹴られ、腫れ物のように扱われ、三回も死に損なう。その瞬間、あの人のことは好きじゃなくなった。嫌いになった。大嫌い。好きな人を死なすなんて考えられない。だから、間違って私が解釈したんだ。あの人は暴力は愛だと言った。あの解釈は間違っていないといけない。
 それにしても、あの人も自殺するなら心中してくれれば喜んで着いて行ったのに。
 …じゃあ、だとしたら、「上手くいかなくたっていい」というのは、どういうことなのだろう。分からない。今も考え続けている。


            『上手くいかなくたっていい』

8/9/2023, 2:55:34 PM