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 雲っこひとつない蒼天はすがすがしい。ちょっと前まで肌寒さに悩まされていたのに日差しはすっかり春になっていた。膝掛けに、毛布、冬にお世話になった暖かな布をしまうべく押し洗いをして次々と物干し竿に掛けていった。

「ハローハロー。こちら冬に大変お世話になった毛布たち、労いも込めてたくさん春の日差しを浴びせてね」
 背中に降り注ぐ日を背にして誰が聞くこともない私と毛布と太陽のやり取り。強風や突風もなくそよそよと擽られるような優しい風が洗濯物にあたっていた。曇らなければ午後になる前には乾くかもしれない。
 とっても洗濯日和であれもこれもとまとめて洗って干していく。掛けれる箇所は全て埋め洗濯以外にも、こんなに天気がいいのだから…何かしたい。毛布を裏返して乾き具合を確かめていると、掛けられた毛布の下に靴が覗き続いて布越しにくぐもった彼の声。

「お嬢さん、せっかくの『快晴』に俺とピクニックなんてどうだろう?サンドイッチにデザートをお持ちしました。戻る頃にはちょうどいい時間だ」
 暖簾のようにめくりあげると彼がバスケットを片手に立っていた。一体どこから現れたのだろう。
「飲み物は?」
「君の好きなフルーツティーを。春の日差しの代わりに俺が労いにきたよ」
 私のやり取りを盗み聞いていたらしい。ぽかぽかした日差しは好きだが形を留めることはできないし、少し切ないなとは思っていた。彼という形があってつい甘えてしまう。ピクニックから戻る頃にはちょうど取り込む時間のはず。

「春を満喫できそうな場所に案内してね」
 毛布を潜り差し出された手を取ると、春の陽気みたいに彼は笑った。

4/13/2023, 11:53:15 PM