夜汽杏奈

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「初恋の日」

小学校の通学路にぶら下がるミノムシに恋をした日
薄暗くなる頃、川沿いを飛び回るコウモリに恋をした日
儚げに道端に咲く名も無い花に恋をした日
朝露の香りのする鳩の声に恋をした日
小さなたくさんの初恋の日は
いつしか大きな勇気になった

ぬかるんだ公園のブランコに座り
小雨が降る中、大好きだった彼を待つ
明日は卒業式
「私ね、遠くに引っ越してしまうの」
彼は悲しそうな顔をしながらも
「同じ関東だから、遠くないよ」
と言った
傘もささずに
ランドセルをほおり投げ走ってきた彼は
何も言わずにワタシの前に立ち止まり
不器用に優しく濡れた額にキスをした
「大丈夫だよ」
いじめられていた私を守ってくれたのも
友達をつくる勇気をくれたのも
大勢の友達に囲まれて過ごせたのも
いつも気にかけ、仲間に入れてくれた
彼のおかげだった
「手紙を書くよ」
「うん、私も書くね」
「毎日書くよ」
「うん、また会える?」
「早く大人になって会いに行くよ」

その後、彼からの手紙は頻繁に届いた
でも私は中学生になり新たな恋をして
いつしか返事を書かなくなった
彼からの手紙も届かなくなった

大人になって
風の噂で結婚した事を知り
一度だけ電話で話した事もある
いつも下を向いていた
一人ぼっちだった私に
前を向く勇気と笑顔をくれた初恋
それは今でもきっと続いている

いつか恋した木々の伐採の反対に署名した
いつか恋した犬猫達の保護活動に共感し保護猫をひきとった
いつか恋した地球の未来の為にCO2排出する車を手放した
いつか恋した草花の為に除草剤は使わなくなり
いつか恋した海の為にマイボトルを持ち歩くようになった

小さなたくさんの初恋の日は
いつしか小さな行動と
大きな勇気と愛に繋がった

歳を重ねた今も
愛する伴侶と共に過ごす今も

変わらずに彼の幸せを願っている

5/8/2023, 10:17:22 AM