出逢いは少し肌寒くて、でも陽が暖かいそんな日だった。
第一印象はあまり良くなかった。ちょっと清潔感に欠ける見た目、ぶっきらぼうな態度、厳しい目つき、抑揚のない声色。何をやっても怒られそうだ、この人とは関わるのはやめよう、と初日にして思ったものだ。
それから少しして、仕事の都合で2人きり。あぁなんてことだ、絶対怒られないようにさくさく働かねば、気を遣って先回りして動かねば、なんてことを考えながら書類を書いていると私の作業をじっと見ているその人。やばい、何かやらかしたか、ええいとりあえず謝罪だと思いなんの脈絡もなく「すみません急ぎます、あ字汚くて読めないですよねほんとすみません頑張ります」なんて口早に伝えると「いや、そんなことねぇよ、全然きれいじゃん、字。俺のほうが汚ねぇし。焦らなくていいから、ゆっくりやろ。」
いわゆる毒親と言われる両親から、何をやっても中途半端 、頑張りが足りない、一番じゃない、下手くそ、駄目、と小さい頃から否定され続けた私にとって『字がきれい』というあの人の言葉はこれまでの人生で誰にも、両親にすら言われたことのないほどの最上級の称賛だった。認められた気がした。受け入れられた、そんな気持ちになった。私の心はまるで春爛漫。たったその一言で文字通りすべてが輝いて見えたのだった。
他人からすると笑い話だろうが、わたしはあの日の出来事を、一生忘れないだろう。
4/11/2024, 12:52:14 PM