ピンを手に取って、鏡を見ながら頭飾りのティアラをとめていく。クラシックバレエを始めてから10年。やっと、憧れだったティアラの飾りを付けることができた。
自分に才能なんてものは無いのだと、小学校低学年くらいからなんとなく分かっていた。他の人よりも硬い身体。ほんの少しの体力と自給力。余裕が無いゆえの、醜い踊り。バレエは好きでも何でもなく、寧ろ嫌いだった。母が言うには、小さい頃に自分からやりたいと言い出したらしいが、そんなの記憶にない。
できないなりに、研究もした。ステップをどんなに頑張っても成長しないから、綺麗に見える手の動かし方や、ポーズなどの細部にこだわった。結果的に綺麗になった。でも、そこまでだった。
私は今回の発表会でバレエをやめる。先生もなんとなく分かっていたようだった。
コンクールでどんどん賞を取って、上手なお姉さん達に仲間入りした同い年の子。めきめき上達してあっという間に私を追い越した後輩の子。見ていて本当に苦しかった。でも、なんだかんだ言って楽しかった。たった一人きり、綺麗な衣装で照明を浴びて踊ることが気持ち良かった。でもそれが『苦しい』に勝てなかったんだ。
鏡の中の私の瞳がゆらゆら揺れている。だめだ、メイクが落ちてしまう。
くっと歯を食いしばって上を向いたら目の端から、一粒にも満たない涙が零れ落ちた。
8/19/2023, 3:37:44 AM