シシー

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 昔はもっと笑っていた
 でも、僕は今の君のほうが好きだ


 お世辞にも社交的とは言えない性格で、いつも過剰な反応を示して浮いてしまう君。余計というほどではないけどずっと聞いていると不快になるような小さな違和感を持っている。たぶん、良くも悪くも素直で従順が過ぎるのだ。
 たまにポツポツと本音をこぼして泣くのは僕と2人きりのときだけだった。ちゃんと自分の悪癖を自覚しているのに今さらどうしたらいいのか分からない、と言って苦しんでいた。

 同じ季節に生まれてから一緒に過ごした時間は他の誰よりも長い。僕以外を優先して、でも上手くいかなくて結局隣に戻ってきては泣いている君は本当にバカだ。他人に好かれたところで意味はないし、媚を売っても信頼など生まれない。せいぜい一時の繋がりを得られるだけで長続きはしないだろう。自分も相手も腹の内など分かりはしないのだから。
 利用されるくらいなら利用してやればいいのに。一方的に搾取されるばかりで悔しくないのだろうか。自己犠牲は献身とはほど遠い。なぜそれが分からないのだろう。

 あれから何年か経って君は笑わなくなった。愛想笑いを覚えて、それ以外は無理のない表情で喜怒哀楽を示す。
嬉しいことがあるとふわりと微笑み、悲しいときは声もなくひたすら涙を流す。怒りは受け流し、流しきれなければ柔らかな言葉にかえて愚痴としてこぼす。
 そうやって他人にみせるためのパフォーマンスだった感情が君自身のものに、元あった場所へと戻っていく。
僕の隣でゆっくりと、少しずつ、本来の君へ戻っていく。
 それが、とても、

 「…幸せなんだよ」


 いつか君にも分かるといいな


             【題:小さな幸せ】

3/28/2025, 3:23:19 PM