薄墨

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今日もニュースは、評論まがいの愚痴を垂れ流していた。
コメンテーターだか批評家だかが、まじめ腐った顔をして、したり顔で、やたら学術的にこねくり回した否定的な意見を述べ、それに対して別の専門家か何かが、もっともらしい専門用語で反論する。

街頭インタビューでは、やけに元気いっぱいの大学生が、外面を取り繕って、何も知りもしないくせに、背伸びをしたようなまじめに見える意見をマイクへ訴え、さっきまで隣人の悪口で盛り上がっていたように見える中年の主婦のグループが、全市民の代表みたいな顔で、インタビューに答えている。

テレビに映るそれらを、ぼんやりと眺めた。
今日のニュース、と見出し語が一覧で並べ立てられる。

殺人事件、芸能人のスキャンダル、税金、虐待、新たに生まれた条例、節約術、今月のトレンド、猥褻事件、動物の赤ちゃんの誕生、株価、地球温暖化、インフルエンザの流行情報、外交、豆知識…
醜崇低高入り乱れた情報が、当たり前のようにいっぺんに吐き出される。

頭が鈍く痛んで、手に持っていたスマホの電源を切る。
画面を伏せて、傍に置く。
テレビニュースはやかましく、熱心に、この世界の不条理と、欠点と、危機を訴えている。
これまでの間違いを論い、これからの間違いを危惧している。

そんなに言わなくたって分かっているのに、と思う。
今が絶望的なのも、未来に課題が山積みなのも、人間が愚かなのも、僕の人生が全部間違っているのも、もう自明の理と言えるほどに十分に分かっているのに。

スマホを置いて、顔を上げる。
テレビのリモコンが手に届くところにあったので、電源を切る。
“テレビのニュースが不愉快だから”ではなくて、“リモコンが手に届くところにあったから”テレビの電源を切る僕はやっぱりいろいろ終わっている。

時刻はもう23時を回っている。
明日はすぐそこまできている。
しかし、眠くはない。
すっかり昼夜逆転してしまった僕の体は、夜の闇に眠気を感じない。

静かになったリビングで、窓を眺める。
ひび割れがガムテープで補強された、大きさだけが大きい窓から、夜の空が見える。
街灯に光負けした弱々しい星が、人間失格の僕と、そんな出来損ないに住まわれた味気ないアパートの一室を包んでいる。

眠気はないが、目を開けて現実を見るのもだるかった。
僕は椅子に座り直して、目を閉じた。
そっと。
そして、僕の人生の終結を祈った。

それは、静かな終わりだった。
静かな終わりを期待する、僕のたった一つの儀式だった。

生活感のない、清潔すぎる僕の部屋は、いつもに増して静かだった。
僕は終わっていた。
僕の部屋も終わっていた。

静かな終わりが横たわっていた。

12/30/2025, 8:30:02 AM