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「三日月」

やけに暗い夜だった。雲一つない空にはポツポツと星が瞬いている。低い位置には三日月がポツンと浮かんでいて、ぼんやりと薄く光っていた。

その日は、男にとって厄日だった。朝はなぜだかアラームが鳴らなかったせいで遅刻してこっぴどく叱られた。寝坊のせいで朝食もろくに食べられず、昼休みまで空きっ腹を抱えて働く羽目になったし、昼休みは昼休みで後輩に泣き付かれたせいで落ち落ちと食事も出来なかった。

そんなわけでとっくに夜も更けた今まで、ろくに食べられないままだったのだ。空腹を通り越してもはや痛みを感じるまである胃を摩りつつ、ふらつく身体を引きずってどうにかここまで帰ってきたのだ。家まではあと五分ほど。暗い夜道に目を凝らし、先を急ぐ。

マンションの隙間から三日月が視界に入った。ぼんやりと光る月に視界を奪われる。月を見たまま、一歩、二歩足を進める。

視界が上になったせいで足元が疎かになったのか、男はふらついて電柱にぶつかった。額を強かに打ち付けた衝撃で蹲る。蹲る拍子に膝まで打ち付けたせいで足まで痛い。

月なんか見ていたせいだ。地面に這いつくばったまま、月を睨みつける。黒い空の上、三日月がニヤニヤと笑っていた。

1/9/2026, 1:27:13 PM