かたいなか

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職場の本日午前の部は、私の胸くそレベルが最大値手前まで急上昇して終了した。
上司から回された仕事を、片付けて、別の上司に提出して、私の手掛けた分は問題無かったものの、最初の上司の手付け分で酷いミスが発覚。
チクチクされたのは私の方だった。「彼のミスに気付けなかったあなたが悪い」との「ご指摘」だった。
世の中って理不尽(真理)。

「宇曽野から聞いた。災難だったな」
昼の休憩時間。煮えくり返るハラのまま、自炊のお弁当にがっついていると、
「丁度、良い物を持ってきている。食わないか」
同じくこれから昼ごはん、と思しき先輩が、テーブル挟んで向かい側の席に腰掛け、笹の葉で丁寧に包まれた大きめのヨモギ餅を差し出してきた。

「珍しい。いつもは『糖質なら間に合ってる』って、低糖質以外はスイーツのスの字も出てこないのに」
「たまには良いさ。……ほら」

受け取って、結びを解いて、葉っぱを開く。
昔々食べたっきりの薄緑色は、別にベタつきもせず、素直に葉っぱから外れて、お行儀よく顔を出した。
「おっきい」
くちゃり。ひと噛みすると、ヨモギより笹の方の香りが、お餅の甘さと一緒に鼻に抜けた。
「おいしい。何個でもいけちゃう」
後から追ってくるこしあんが、ただ懐かしくて、今までのイライラが少しずつ溶けていく。まるでお餅自体に、心の毒抜きの魔法でもかかってるみたいに。
捨てる神あれば拾う神あり(これもまた真理)。

「お気に召して頂けたようで。何よりだ」
先輩が自分の弁当を広げながら言った。
「で、己の都合に後輩を利用するようで、非常に心苦しいのは山々なんだが」
ランチポーチの結びを解いて、弁当箱の蓋を開ける。
「……食うの手伝ってくれないか」
中には数種類のお餅がガッツリ敷き詰められていた。

「どしたの、それ」
「いや、1個のつもりだったんだ。1個だけ買うつもりだったんだが。妙に美味くて、懐かしくて。つい」
「何個?」
「合計10個」
「そのデカさで」
「そう。このデカさで」

「はぁ……」

3/5/2023, 1:54:40 PM