あい

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快晴。
しばらく降り続いた雨のせいで地面はぬかるんでいるが、ボロボロのスニーカーはこれ以上汚れる余白もない。そろそろ新しい靴や衣服が欲しい。俺の彼女は町で一番オシャレで、こんなよれよれのシャツをいつまでも着ていると別れを告げられかねない。コーディネートしてあげると言われ、雄の孔雀みたいにされた日が懐かしい。
ああそうだ、明日か明後日にでも、ショッピングモールに行かなくちゃ。愛想を尽かされる前に。ぬかるみを気にもせずに歩くから、ズボンまで泥で汚れる。俺だって普段は水溜まりや石ころをよけて歩くさ。でもそれができない日もある、そうだろ? びちゃびちゃと酷い音がして、いつの間にか破けていたスニーカーの側面から泥が入り込む。最悪だ。こんなのやっぱり嫌われてしまう。びちゃびちゃ。替えの靴も立ち止まる時間もないので前に進み続ける。びちゃびちゃ。そこらじゅうがぬかるんでいる。
やっと我が家だ。急いで階段をのぼる。小さいアパートの角の部屋を彼女は気に入っている。俺の家なのに、他の住人に勝手にあだ名をつけては、密かに会話のネタにした。ひょろくてノッポの教授は車で出て戻らず、いつでも騒がしいハリケーンはめずらしく沈黙している。ついでに言うと帽子かけとレジスターと汚れたテディベアも帰ってこないままだし、ストロベリーマフィンちゃんの部屋からはすごい匂いがする。馴染みの臭いの中を進み、彼女の待つ部屋に帰ってきた。
「今ごはんあげるから。ダイエットはよくないもんな」
両手に抱えていたものを床に置く。鎖の届かないギリギリの範囲で、俺はそれを見下ろす。彼女はまるで世界一のファッショニスタみたいに、まだらに染まっている。
勢いよく、彼女が肉にかぶりついた。

4/8/2023, 11:13:03 AM