SAKU

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読み終わった本を閉じると、傍に置いていた紅茶が冷えている。早めに明かりを点けていたから外が暗くなっていたのに気づくのが遅くなってしまった。
カーテンを閉めるために揺りいすから腰を上げ、窓辺に近づく。
薄墨に藍を溶かしたような空に、樹木がくっきり影を作っている。空気が澄んでいるのか、星が隙間から瞬いているのが今日はよく見えた。
ふ、と尾を引いてひとつ星が流れる。
木々の間を縫って消えた光に、そういえば今夜は流星群が見られると噂を聞いた気がした。
あの人に以前、星を見ようと連れ出されたことを思い出す。
少し歩いた先にある森が開けた丘だった。夜に備えて家の中で昼寝をしていたら寝過ごしてしまって、ぽつぽつ流れる星に焦って、手を引くあの人に息を切らしてついていった。
冷たい地面に寝転がり、二人流星を目で追いかける。地面の匂いと夜空の煌めきだけは鮮明で、空が静かになった後も寝転がって少し話をした。
何を話したかなんて覚えてない。それでも願い事は二人ともきっとしなかった。

今はあの丘に、誰もいないだろう。
あの星の下にまた誰かが自分を連れ出してくれるだろうか。
それはあの人だったらいいし。あの人に全く似ていない人だといい。
いつかとは違い、ひとり窓越しに流星を眺める。窓枠に切り取られた空は、あの時よりだいぶ窮屈だ。

7/1/2024, 3:24:33 PM