-ゆずぽんず-

Open App

幼少の頃から、兄、党に長男の背中を追いかけて育ってきた。兄がすることを真似して、兄が発する言葉を真似しては兄に追いつこうとしていた。幼い頃はみな素直で、醜い感情など持ち合わせていなかった為、私がどれだけ兄と一緒に居ようが口を出す者はいなかった。しかし成長していくにつれ、私も兄弟たちも誰もが持つ醜い心を持つようになっていた。


兄(長男)がまだ幼い頃、つもり私がまだ三歳で妹が一歳になろうかと言う頃は、まだ父は健在だった。そんな父は兄だけを特に可愛がっていたそうだが、というのは私たちにはほとんど記憶がなく、母や姉から聞き及んだ話だ。母が私たちの世話におわれる中、父は長男の世話だけを見るだけで他は何もしなかったのだそうだ。そして、姉には冷たく当たっていたのだという。この時、姉は既に小学校へ通っていたのだが、家のことをすべてやらされ、姉が貯めていた駄賃もパチンコに浪費していたと聞く。姉の目の前で、冬季の貯金箱を叩き割って小銭を握りしめて家を出て言った時のショックは大きく、それまで耐えていた姉も遂に限界を迎えた。姉は母に言って、暫くの間は祖母の家で暮らしていたのだそうだ。そういう経緯から、成長するにつれ次男や妹に至るまでま長男に冷たく接するようになった。母や姉は端から毛嫌いをするようになっていたので、私が小学校に上がる頃には喧嘩が絶えなかった。次男や妹も、兄が一緒に遊ぼうとすると追い返したりものを投げつけたりしていた。
冒頭に触れたように、私は長男に憧れていた。いつも強く、優しく、どんなときも味方でいてくれた。そんな私も、偶に喧嘩をすることはあった。これは兄(長男)を嫌ってのことではなく、純粋に兄を連れていくと友達が嫌がるからだった。私が小学一年生の時、兄は小学四年生だったが、既に暴力沙汰を起こすような素行であった。学校の中で、兄や兄の友達(悪友)は恐怖でしか無かったし毛嫌いされていた。気に入らないことがあれば!相手が下級生だろうが女子だろうが、気にせず手を挙げていた。そんな素行の悪い兄を連れていけば友達はみな怖がって私を遠ざけるのだ。それが悔しく、悲しく、腹立たしかったから兄を追い出そうとしたのだ。 結局、友達はみな解散してしまい、私はひとりとぼとぼと帰宅をした。帰宅した私は包丁を手に兄を待った。兄のことが嫌いだった訳では無いが、その時は感情が高ぶってしまって暴走してしまったのだ。
何度殴られようが、喧嘩をしようが兄と私は気がつけば仲直りをしており、兄や兄の同級生と遊ぶ毎日をおくっていた。もちろん、私が友達と遊ぶ時には来ないでくれと口うるさく言っていたので兄も我慢してくれていた。そうやって育っていく中で、私と兄の関係は変わらず続いていた。ところが、他の兄弟や母はより一層、兄を嫌っていた。兄だけが除け者にされ、兄だけが冷たくあしらわれ、兄だけが我慢を強いられていた。甘えることも許されず、家族の温もりを感じられず、いつも孤独の中にいた。だからだろ、兄はどんどん不良へと進んでいったのだ。
中学を卒業した兄は、地元で有名な暴走族のメンバーと関わるようになった。中には暴力団の関係者もいた。私も兄に誘われて、兄や不良仲間とカラオケに行ったり遊んだりした。この時私は中学三年生だった。大人を、人を、誰も信用出来なくなっていた時、子供の時のように兄の背中が格好よく見えた。兄だけは私の話を聞いてくれた。私を励ましてくれた。私の手を取ってくれた。しかし、そんな兄が疎ましく思える時もあった。それは、母や次男に金をしつこく催促するからだ。遊ぶ金欲しさに、暴力で奪い取ったり、母と大喧嘩をして暴れたりと平穏が脅かされた時だ。この時ばかりは、兄貴や家族そのものを疎ましく思った。なぜ私はこの家族のもとに生まれてきたのか。神も仏もこの世には存在しないのだと、世の中を、人生を強く恨んだ。
しかし、素行の悪さの結果、兄が犯罪に手を染め逮捕され鑑別所に入った時も、少年院に入った時も兄の更生を強く望み強く願った。そして、そのためにできることを考えたのだ。家族の意識を変える必要があると。姉は既に嫁いでおり不在だったが、残る兄弟を何とか変える必要があった。そのために兄が入所している間に手紙のやり取りをしたり、兄の出所を祝おうとみんなで計画をしたりした。しかし、出所からひと月程しか継続できなかった。まず、母が元通りの接し方を始め、それに反発した兄に対して兄弟が加勢し始めたのだ。これ個繰り返しで、私は全てを恨み 、全てを憎んだ。もう、何も出来ない。変えられないのだと自分を悔やんだ。


だから、全員まとめて殺めてしまおうと思った。そして私もこの価値のない人生を終えようと思った。


思いとどまったのは、そんな中でも兄(長男)は変わらず私に優しく接してくれた。私を可愛がってくれた。私を 頼ってくれた からだ。
いま、兄がどこでどんな暮らしをしているのか知る由もない。母が疎遠にしたからだ。だが、必ず 何かしらの方法で 兄との 縁を取り戻すと私は 誓ったのだ 。あの日の自分に 。家族を終わらせ、自らの 命を終わらせようとしたことは、私の誰にも言えない深く思い 罪の記憶である。

6/5/2023, 1:09:45 PM