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『終わり、また初まる』

 ある廃墟の中、俺はある女性を守る為にここに来ていた。

 その女性の名は春夏冬小夜。俺の主人であり命の恩人。だからこそ俺はここに居る。

 目の前の男は俺の主人を連れさり、身代金を要求しようとしているらしい。なのですぐに片付けようと思ったのだが——

「あれ、こうさん?」

「……ん?」

 どうやら先客が居たようだ。それも二人。片方は髪を金色に染めてオールバックにした筋骨隆々の男。もう片方は夜を溶かしたかのような黒髪ロングの細めな女だった。

 その二人は俺のターゲットを瀕死にまで追い詰めている。あの状態なら処置次第でまだ助かりそうだが生憎俺は助ける気は無い。

「久しぶりっすね、こうさん」

「あ?」

 気安く話しかけてくる金髪の男へ視線を向けると、過去の記憶が蘇ってきた。

「ああ、千尋《ちひろ》か」

「下の名前はやめてくださいって前から言ってるじゃないっすか」

 こいつは千尋。殺人を主とした犯罪組織『ghost《ゴースト》』の幹部の一人。実力もかなり高い。

「こうさんもghostの依頼ですか? でも出来ればこいつは譲って欲しいかな〜と……あはは……」

「俺は依頼じゃない。というか俺はもう殺しはやめた。他の犯罪もだ。今はあるお方に仕えている」

「えっ、こうさんがですか?」

「あの頃の俺は終わった。今の俺は違う。初まったんだよ」

 俺は踵を返す。ターゲットに恨みがある訳でも無いし、何より未遂だ。

「じゃあな。そっちの女は知らないがこれからも上手くやれよ」

 俺は二人にそう言葉を投げかけ、主の元へ帰るのだった。

 ※※

 こうさん——清廉煌驥さんがいなくなった後、隣にいる優璃《ゆり》が質問してきた。

「あの人は誰ですか?」

「……あの人は俺達が今いる組織の一員だったんだ。だが幹部でも下っ端でもない」

 俺の言葉に優璃はコテンと首を傾げる。

「あの人は依頼を頼む時は幹部から下っ端とかじゃなくボス直々に出向いたらしい。そしてボスでさえ頭を下げてお願いをしたって話だ」

「強いの?」

 隣から聞こえた言葉に俺は頷いて返す。そして前に足を進めようとした女を右手で制止する。

「あの人と殺り合おうとするな。幹部全員で行っても勝てない。この世界に化け物がいるって覚えてろ。そしてあの人が大切にしている物、人、その他全てに手を出そうとするな」

 俺は依頼達成の為に歩き出す。そいつの近くに寄った時、俺は驚愕で目を見開いた。出血多量などで死なない程度に瀕死にしていたはずのターゲットは死んでいて、近くに髪が置かれている。こいつから吐かせようと思った様々な情報が記載されているようだ。

 ……全く。本当に恐ろしい。元々情報を持っていたのか? 他組織の重要機密情報を?

「……死にたくなければな」
 
 
 


3/13/2025, 11:11:48 AM