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 俺たちの冒険はまだまだ続く--

 最後の一ページ、最後の一行を読んで、本を閉じた。両手で挟んだ本を膝の上に置いて、ソファの背もたれに寄りかかり、目を瞑って全身を脱力させた。目の前に浮かぶ情景は、これまで共に冒険してきたキャラクターたちの未来だ。
 キャラクターたちはこの冒険を経て大きく成長した。仲間との衝突や、とんでもない強さの敵に一度負けて挫折することもあった。壮絶な過去のトラウマに飲み込まれそうな時もあった。でもそのたび仲間と力を合わせて乗り越えて、身体も精神も大きく強くなった。読み進めれば進めるほど、キャラクターそれぞれの個性に魅了されていった。
 読者はこの最後の一行を読んで、キャラクターたちの冒険はどのように続いていくか想像するしかなかった。未知なる土地へ赴いて、新しい発見をするのか。それとも冒険で訪れた場所へまた行って、出会った人々と交流を深めるのか。ぶっ続けで冒険をしていたから、一旦王国で休息を取るのかもしれない。考えたくもないが、もしかしたら旅に疲れたキャラクターが仲間から抜けてしまうことがあるのかもしれない。こんなに仲良いメンバーで構成された仲間たちだ。できれば最後の旅まで、誰も抜けずにいてほしい。
 目を開けて膝に置いた本に目を落とす。表紙にはキャラクターたちのイラストが描かれている。この冒険のシリーズは膨大な量で、ゆうに数十巻は越えている。だからこそ読み応えは群を抜いてあるのだけど。伏線の数も多く、確認のために何十冊も前の巻を読み直すのだが、そこから手が止まらず結局全巻読み直したことが何度もあった。最終巻も例に漏れず、怒涛の伏線回収が待っていて、読み進めたい気持ちと読み直したい気持ちがせめぎ合っていた。
 最後の数十ページは読む手が止まらなかったから、伏線の確認はしていない。気になるところはいくつもあったから、この熱が冷めないうちに確認しよう。
 私は本棚に手を伸ばして一巻を引き出した。一環と最終巻は表紙がリンクしているとSNSで話題になった。購入した当初、一巻との見比べでいつまで経っても最終巻が読み始められなかった。
 改めて眺めてみると、キャラクターの顔立ちが気になった。一巻は初々しい顔立ちで、最終巻は鍛え上げた身体や精神に相応しい顔つきに変化しているのは理解できる。
 でも、年齢は変わってないのだ。
 所謂サザエさん時空と呼ばれる、季節を一巡しても年を重ねずにいる物語なのだ。一年間の物語とするには、冒険の内容があまりにも膨大で時間軸がズレる。だから、冒険の旅は何年もかけて行われているが、キャラクターたちは歳をとっていないのだ。
 だからこそ、疑問に思ってしまった。

 歳を取らないなら寿命で死ぬことはない。
 それならいつ彼らの冒険は終わるのだろうか。

『終わりなき旅』

5/31/2024, 12:20:05 AM