外では雨が長く降りしきっている。
窓は曇っていて、外の様子は見えない。
私はベッドの上でうつ伏せになりながら、ため息をついた。
天気が悪い時は、心も自然と曇ってしまう。
ぐったりしながら、昨日の事を思い出していた。
昨日のデートは最悪だった。
付き合って7ヶ月目のデートは、今人気の映画を見たのだ。
はじめは仲良く、楽しい時間を過ごせていたのに、ちょっとした、ほんとにくだらない事で言い争いになり、ふたりとも無言のまま、険悪な雰囲気を残したまま駅で別れて、私は帰途に着いたのだった。
もう一度、小さなため息と共にベットの横の棚に置いてある携帯に目をやる。
LINE音は鳴らない。
昨日帰ってきてから、彼以外のLINE通知を全てオフにしたので、鳴ったらそれは彼からのLINEなのだ。
こちらからはLINEする気にはならないが、向こうからなら、見てやらないこともない。
向こうから謝ってくるなら、許してやらないこともない。
つまんないことで喧嘩したけれど、自分が折れるのはイヤなのだ。
だから、こうして昨日帰ってから、ずっと気にしながら携帯を我が身から離さずに横に置いているのだけれど、彼からのLINE音は一向に鳴らないでいるのだ。
そろそろ送られてくるんじゃないだろうか。
いつもの見慣れた、ミドリの帽子をかぶったグレーの、あまり可愛くないネコが申し訳なさそうに頭を下げてるスタンプが。
時計をみると、午前11時半をすぎたところだ。
いやいや、ありえないでしょ、ここはお詫びと共にランチに誘うところだよ?
今回は割り勘は無しね、
こんなに私を悲しませたんだから。
待ってるんだから、早くLINEしなさいよ。
まだランチに間に合う時間だよ。
もう少ししたら、いつものお店も激混みで入店できないかも。
そんなこと考えながら、ちょうどグゥーと小さく鳴ったお腹をさすりつつ、暇つぶしにテレビでもつけてみる。
何年か前に流行った恋愛ドラマがやっていて、当時人気だったアイドルが、テレビの画面の中で悲しげに目を伏せた。
そして、
『優しくしないで…』
と囁くように呟いた。
いやいや〜!!
優しくしないで、なんてないでしょ!
優しくされようよ、いやというほど甘やかされようよ。
思い切り甘やかされて、女子は育つのよ。
愛が育つのよ。
だから私はLINEを待つわ。
自分から謝るなんて無理無理。
そんな愛はいらないの。
優しくされたいの…
優しくされたいのよぅ
会社では、あっちの人に気を使いこっちの人に気を使い…
恋愛だけは…主役になりたいのよーっ!!
と、その瞬間、LINEが鳴った
まくらを跳ね除けて携帯を掴んでLINEを確認する。
ほらね!!
やっぱりいつもの謝るグレーの猫のスタンプ。
『昨日はちょっと調子に乗ったごめん。腹減ってない?』
それを見た瞬間、私の心はぱぁーっと晴れ渡り、さっきまで暗黒雲はどこへやら。
いきなりの青空がどこまでも広がった。
いつものお店、13時ね!
とだけ返信すると、ベッドから跳ね起き携帯を放り出し、タンスからお気に入りの服を取り出してベッドに置くと、準備のために洗面台に走った。
外の雨はなかなか止まないけれど、心の雨はいとも簡単に止んで、場合によっては大きく晴れ渡るものだ。
優しくしないで、
じゃなくて、
優しくしてね!
でもこれからは私も、少しは彼に優しくできるよう、頑張ってみようかな。
そんな事を考えながら、顔を洗うためにピンク色のターバンで髪を押さえたまま、鏡の前でガッツポーズをとったのだった。
5/3/2024, 6:22:23 AM