虹果(カクヨム垢有)

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遺書として送り出したあの手紙。
妹の元へ届くはずだったのに、配達トラブルで届かず仕舞いになった。
この手紙の在処に気づいて欲しいあまり、幽霊になってしまった私は、今日もここで泣き続ける。
見つけて、私の想いを見つけて。
「おまえはもう成仏するんだ」
ふと声がして顔を上げると、そこには見た事のある人物がいた。
「あなたは、死神……」
黒い布を纏った人物は、それを否定しない。
死神は続けた。
「今年この世から去ると決められている魂の数と合わない。妹を予定より早くあの世行きにした上におまえが地縛霊になる、なんてことになりたくなければ、さっさと成仏しなければならない」
「なんで妹が出てくるのよ!!」
「この世にひきとどまる諦めの悪い人間への罰として、関わりの深かった人間を連れていく約束になっているからだ」
感情のない声が、淡々とそう告げた。




彼女は最初は取り乱したものの、無事この世を去る選択をしてくれた。
「お疲れ〜!先輩の死神が刈り残した魂を送る役割なんて、いかにも下っ端って感じで嫌だよね」
同期の死神見習いが、ヘラヘラと声をかけて来た。
「別に」
そいつに背を向ける。
「ていうかあんた、本当はもう、こんな下っ端の仕事なんてしなくていいくらい魂送ってるんだろ? 早く昇進したらいいのに」
「それはこっちの自由だ」
「ふぅん、変なやつ」
人間の魂にとっては、死神などどれも同じに見えるから、会った瞬間に「あの時の死神め」と恨み言葉を言われることも少なくない。だからこの仕事を嫌がって、とっとと昇進していく者は多いと聞く。
だが、自分は気にならない。それどころか、幽霊になって彷徨って、人として味わえる喜怒哀楽をほぼ忘れ、固執する事柄だけを頼りにかろうじて魂を保っている哀れなその姿を見るのは、とても面白い。
……なんて本音を言おうものならば、あっという間に昇進させられて、現場から外されてしまう。そんな勿体無いことはしたくない。
「あんた、本当はめっちゃスゴイやつなのに勿体無いね」
自分はそれを無視し、絡んできた死神見習いの前から立ち去った。
地位と満足が比例していると思いこんでいる、救いようのない新人にかけるべき言葉を探すのは面倒だった。

と、ふいに視界へ、一枚の手紙が入った。
(ああ、遺書か)
さっきの魂が言っていたものに違いない。魂が最後の願いとして、自分にこれを送りつけてきたのだろう。
それをパッと燃やすと、
『どうして燃やすのよ?!』
と、さっきの魂が叫ぶ声が聞こえた気がして、思わず口の端がニッと上がる。
そう、こういうことがあるのも、この仕事の面白いところだ。
人間の願望通りになんでもうまくいく。そういう甘い空想を打ち砕くのは実に愉快であった。



(お題 : 手紙の行方)

2/19/2025, 7:16:47 AM