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「くそ〜っ…」
土砂降りの中を、必死に走る。
降る雨が体の体温を奪っていくけれど、そんなこと気にしていられない。
はやく、会いに行かないと。
「…うぉっ!?」
最悪だ。こんなところで転ぶなんて。
全身びしょびしょになってしまった。
「ダッサ…」
転んだ結果、手の甲を擦りむいてしまった。
血がどんどん滲んでいく。
急いで、ポケットからハンカチを取り出して、止血する。
蝶々結びをして、固く固定する。
「よし」
勢いよく立ち上がって、足を進めた。

「ごめんっ!!」
そう言いながら、合鍵を使ってドアをあけた。
「…ん、まってたぁ」
顔を真っ赤に染めて、ソファに寝ている君は、いつも以上に目頭がとろんとしていて、呂律がきちんと回っていないように思える。
「ごめんね…」
頭を優しく撫でると、君の手が俺の手に触れる。
異常に、体温が高い。
「ふへへ、手、冷たい」
は?可愛いすぎるじゃないか。
それは、反則だろ。
「…ねえ、熱あるでしょ」
君は、少し肩を震わせた。
「そんなことないよ」
君は、平気を装ってそんなことを言うけど、俺にはわかる。
嘘をついている顔をしている。
「嘘だ。本当は、辛いくせに」
鋭い目でそう言ってやると、君は眉を顰めて、涙を大きな目いっぱいに溜めた。
「…つらいよお、助けてえ」
「うん。やっと言えたね」
えらいね、と言いながら、体を起こす。
「…何して欲しい?」
そんなの看病に決まっているだろ、と言われるだろうが、
相手はかなりの強情っ張りである。一筋縄では行かない。
こう言う時は、何をして欲しいのか聞くのが一番良い。
「みず、欲しい。」
「うん」
「あと、アイス」
背中を優しくさすりながら、耳を傾ける。
「それで、今日一緒にいよ?」
やっと、言ってくれた。
「わかったよ」
水を持ってこようとソファから立つと、君の手が俺の服をきゅっと掴んだ。
「…ごめん。今日、忙しかったでしょ」
俯きながらそういう君は、見ていられない。
「いや?今日、暇だったよ」
君の前に屈んで、手を握ってやる。
「ほんとに?」
「うん」
すると、君は眉を下げてふにゃりを笑った。
転んでも、嫌なことがあっても、君が笑っているだけで一日が良い日になる。
そんな顔が、俺は大好き。
「だって、今日は雨だからね!」





3/23/2025, 11:34:14 AM