終末時計の針がニュースになったのは、最近の記憶に新しいところですが、
さすがに終末時計の針からハナシを膨らませられるだけの頭の引き出しは無い物書きです。
普通のアナログ時計の針でもって、不思議なおはなしをひとつ、ご紹介します。
最近最近のおはなしです。
あったか快適温度のコタツで、お嬢さんの膝の上に稲荷子狐がちょこん。
行儀よく、おすわりしておりました。
「よぉし!コンちゃん、お勉強の〜時間だよー」
「おべんきょ!おべんきょ!」
お嬢さんがアナログの、もう動かなくなった壁掛けの、時計の針をくるくる、くるくる。
指で回してみせますと、
針の動きが楽しいのか、動くものに狐の本能が呼び覚まされるのか、子狐がそれを目で追います。
アナログ時計の読み方を知らない稲荷子狐でも、
時と分と秒の概念は知っておりますので、
ここで助っ人デジタル時計が、アナログ時計の隣に登場。ちょうど1時をさしています。
「コンちゃーん、はいっ、今なーんじだ」
「いちじ!」
「そう、1時!
1時はアナログ時計で、こうなりまぁす」
ドゥルルルルルルー、だぁ〜ん。
動力消えた時計の針が回って回って、
長針と秒針が12へ、短針が1へ。
「いちじ!」
「そうだよ〜。これが、1時だよぉ。
はい言ってごらん。1時」
「いちじ! 1時!」
そんなこんな言ってる間に、デジタル時計は1時から、2分進んで1時2分になりました。
「コ〜ンちゃん、今何時」
「1時にふん!」
「そうだよぉ、1時2分!
2分はここから、この長い針が〜、い〜ち、に。
はい、ここに来まぁす」
にじ!にじ! なんで?
コンコン稲荷子狐は、首を上げてお嬢さんを見て、
コテン、顔を傾けます。
お嬢さんが穏やかに笑います。
その頃にはデジタル時計が1分進んで、1時3分になっておりましたので、
稲荷子狐の時刻に対する理解を深めるために、
お嬢さんは時計の針の長針を、また動かしました。
実はこのお嬢さん
稲荷子狐のお母さんから
たまに子供の先生になってやってほしいと
報酬付きで依頼されまして。
…——『来月からで、結構です』
『あたしが、コンちゃんのお勉強の先生〜?』
『週に2〜3回。
やってくだされば報酬はこのように』
『やりまぁす。』
時計の針を逆回転させること、約24時間前です。
お嬢さんが稲荷子狐と一緒に、マグロのあご肉をパチパチ、塩焼きにしておったところ、
稲荷子狐のお母さんがやってきて、言ったのです。
あなたは清い魂を持ち、なにより末っ子がよくよく懐いておるので、
ぜひ、来月から1年くらい、人間としての先生になってほしい、とのことだったのです。
子狐のお母さん、お嬢さんが美味を探訪する美味スキーであることを知っておりましたので、
お嬢さんが決して拒否できないように、
月謝は狐の秘密の薬茶、ハーブ調味料、甘味、
そして稲荷神社に伝わる和菓子を季節ごとに、
ズラァーっと、ラインナップをまとめました。
『コンちゃん、一緒に、お勉強がんばろー!』
『おべんきょ!おべんきょ!』
素朴な美しさを持つ、丁寧な仕事が為された稲荷和菓子に、お嬢さんは大感激!
お母さん狐が用意した仮の契約書にサインして、
まず前金として2月の狐のハーブティーをゲット。
もう少しハナシを詰めるため、来週にでも、
お母さん狐と一緒にお茶とごはんを楽しみながら、話し合いをすることになったのでした。
『でも……やっぱりぃ、あたしがお勉強の先生したら、どういう授業になるかは、
先にデモンストレーションすべきだと思うんだぁ』
『人間としての知恵を、人間であるあなたが教えるだけで良いのです』
『いっかいだけ!1回だけ、お願いするぅ』
『分かりました。それではまず……』——…
…——「さあコンちゃん、1時5分、できるかな〜」
「ちっちゃいの、1!ながいの、
ながいの、どれ?これ?」
「それだと1時25分になっちゃうねぇ」
時計の針は物語冒頭まで戻り、つまり24時間後。
お嬢さんと子狐が、お母さん狐に言われた「アナログ時計の読み方」のお勉強をしております。
勉強は映像で撮影されて、お母さん狐の最終的な判断材料となるのです。
「わかんない!」
「じゃあ、1時5分のハナシが終わったら、
おやつタイム、しようね〜」
「おやつ!おやつ!」
お嬢さんの時計講座は初回20分で終わりまして、
撮影した映像を見たお母さん狐は再確認。
やはりお嬢さんに教師を打診して良かったと、深く頷きましたとさ。
2/7/2026, 5:33:41 AM