木瓜(ぼけ)

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数年前の今頃、実家近所の祭りでくじを引いた。
理由は特に無い。久方振りの従姉妹らに手を引かれるがまま、偶々目についたのがそれだっただけのこと。

「何に使うの?」
「じゃあ、あれ引いてくる」

大人達は子供の仲良くする様が微笑ましいのか、「これで遊んで来なさい」とそれぞれに幾らかの小遣いを握らせた。

妹や下の方の従姉妹は幼いもので、一丁前に仰々しく受取る姿は少しだけ滑稽に思えた。ま、口すれば怒られるだろうからその事実は墓場まで持っていくつもりなのだが。

何はともあれ、私は一歳年下の従姉妹の問いに答えるべく、適当に目についた屋台を指したのである。なお、この時点で下の子らは既に散っていた。多分お金が尽き次第戻って来るので放っておいた。着いてくのが面倒だったのもある。物臭なインドアに、典型的なアウトドアは相性が悪すぎた。

くじ屋は雑多なラインナップで、戦隊の玩具やらお付きの妖精やら、兎に角色々なものに溢れていた。特に価値の高い景品は客寄せのためか屋根に吊り下げられていて、風がそよげばプラプラと揺れるのがやけに目を引くのだった。

「おじちゃん、くじ一枚」
「おう、じゃこっから引いてね」

一枚百円。銀色の硬貨と、紙切れ一枚。気の良さそうなおじちゃんは、朗らかに笑ってくじ箱を寄越した。がさがさと大量の紙切れの擦れる音を聞きながら、私は無造作に箱の中を漁り出す。手を入れる穴が大きくて、「これ人によっては中見えるよな」とかどうでもイイことを考えてた。

「おっ一等じゃないか!こんな早々に当てるなんて、運がいいねぇ」
「凄いね木瓜ちゃん!一等だって!」

物欲センサーというやつは、どうもくじ引きにも適用されるみたいだ。まさか、適当にやって引き当てるとは。コンビニでアイドルのタオルカレンダーを引き当てて以来数年振りだ。

「ほら、喋るオラフだよ。持って帰ってね」

そしてこう言う時に限って、景品は微妙なのも、数年振りである。お約束なのかもしれない。さすがに小学生とは言え、ぬいぐるみの類は卒業して久しい。下の従姉妹なら園児故、欲しいかとも思ったが、「オラフ?なにそれー知らない」と一蹴されてしまった。そうか、あれもう古いのか。

「えぇ、どうしよ……」
「目当てじゃなかったの?」

まあそうだ。どちらかと言うなら、三等のトートバッグが欲しかった。だって散ってった彼女らの戦利品を持つ事になるだろうから。

「もはやこれが一番嵩張るぞぅ」
「どーするの、一旦帰る?」

先ほどから気を利かせて一喜一憂してくれていた従姉妹の気遣いが身に染みる。一人っ子気質で頼り甲斐の無い自身に比べると、大して歳の変わらぬ彼女は立派な姉のように感じた。

なにせ、二つ違いの妹に音を上げている私と六歳年下の妹の面倒を見ている彼女じゃ、どう見ても苦労の程度が違う。幼児の考えることなど、不可思議でとんと分からん。自分ですら、二歳違いにジェネレーションギャップを感じると言うのに。

とまあ。そんな苦労を日頃よりしている彼女に年上の面倒までみさせるのは、ちょいと気が引けるので。

「いやぁ、抱えとくよ。万が一でも迷子は困るし」

散開してった末っ子どもは、堪え性が無い。ついでに目敏い。きっと会場内に姿が見えなくなれば、ふらふらとどこかへ行ってしまう。そうなってしまえば、親に叱られるのは自分とその子なので。私は我慢することに決めたのだ。

まあ結局、買う気が無いなら博打は打たない方がいい。要らんものばかり増えて、どうしようもない。そう学んだ、真夏の記憶だった。

8/13/2025, 5:28:52 AM