hot eyes

Open App

「おっ、咲いてる!いえーい」

ぴーすぴーーす、と桜にチョキを作ってるのは俺の恋人である葉瀬(ようせ)だ。今日、買い物の帰り道に近くの川沿いを通ってみると桜並木の桜がちょうど咲いて散っている頃だった。
下を見ると散り落ちた桜の花弁が張り付いていた。上を見ると、薄桃色の花弁がひらひらと舞い落ちてくる。
綺麗だな、なんてぼんやり思っていると葉瀬が話しかけてくる。

「恋愛漫画とか小説にさ、恋人達が桜見てて急に『君が......桜に拐われちゃうと思って...』って言うシーンあるよね~」
「確かにあるよね」
「ね!玲人(れいと)も拐われとく?」
「なんでそうなるんだよ。阿保か?」
「阿保じゃない!私だって体験してみたいんだよ!桜拐われを!」
「なんだその名称。それに俺は体験したいわけじゃない」
「えぇー私、玲人に『君が桜に拐われちゃうと思って...』って言いたいんだけど~」
「やっぱ阿保だ」
「阿保じゃないーーー」

むー、と葉瀬が不満そうにしていると突然、ビュォワッ!と勢いよく風が吹く。「うわ!!」と葉瀬と俺は真横からその風を食らった。
「わぁぁ!」
「わっ!」
髪は荒れて手で直そうとするも、風に弄ばれてしまう。

風が強く吹いたせいか、桜の花弁が風に舞って降ってくる。
「わ、あはは!綺麗!」
葉瀬は桜を見上げて笑う。その声が花弁に混じって少し遠く聞こえる。

葉瀬が髪を耳にかける時、桜が彼女を包み込むように降ってきた。

刹那。

「うおわっ!!ビックリした~!急に掴んだら危ないじゃん!」
「...ごめん」
俺は気づいたら葉瀬の手首を掴んでいた。

「......もしかして、私が桜に拐われちゃうーって思った...?」

ひょい、と葉瀬は俺の顔を覗き込んだ。俺は無言を貫く。
「え、本当に?」
彼女にはそれが肯定に聞こえたらしい。
「......大丈夫だよ。私はここに居るから!拐われてないでしょ?ほらぁ~見えてるでしょ~幽霊じゃないでしょ~」
ほらほら、と掴まれている腕をブンブン振る。それでも俺は離していない。
「...葉瀬さ」
「ん?何?」
「俺が手、離そうとしたらどっか行くでしょ」
俺がそう言うと、葉瀬はぱちくりとまばたきをする。
「...ぃや行かないけど?それに、行くってどこに行くんだよ。買い物したのに」
「違うわ。葉瀬、俺が手離したいって言ったら頷いて離れるよね」
「?......葉瀬ちょっとよくわかんない。ギャッ!力強!!」
少しムカついて手首を握る力をちょっと強くすると、葉瀬は驚いたのか手首をブンブン振って離れようとする。強くしたと言っても離れにくくしただけなので手首に跡はつかないだろう。

「もう......心配し過ぎよアナタ!それに私が玲人の目を盗んでどっか行くとか無いからね!?」
「......そっか」
「うん!だから離しぃや!」
「...それはやだな」
「わっつ。信頼されてない?」
「そういうことじゃなくて、その......今は、手繋ぎたいなって...」

そう言うと葉瀬は無言になるが、再び口を開く。
「なら、ちゃんと繋ぎたいから一回離して?」
俺がパッと手を離すと、葉瀬が俺の手をぎゅ、と握ってくる。
「んふ、可愛い。そろそろ帰ろ!」
そう言って葉瀬は俺の手を引いて帰路へつく。

俺も肩を並べるようにちょっと一歩踏み出して歩き出した。

お題 「桜」
出演 玲人 葉瀬

4/5/2025, 8:52:41 AM