そんじゅ

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趣味をきわめてみたくなり、骨格標本制作のワークショップに参加して半年。先週やっと骨の漂白が終わり、今日から組み立ての工程が始まった。

大型動物の場合、何をするにしてもとにかく広いスペースが必要だから自宅ではなかなか手を付けられなかった。ここでなら思う存分作業ができて気分が良い。

真っ白に仕上がった脛骨を握る。手袋越しでもさりさりとした手触りが心地よい。きっといい出来になる、と気合を入れ直したときだった。後ろから申し訳なさげに声をかけられた。

「あの、もし骨が余ったらどうすればいいの?」
「余るわけないだろう」
「いや、ここに山盛りあるんだけど」
「は?」

ちら見すると彼の作業台の脇には骨が散らばっている。翼の骨か。なるほど、真面目に参加してたなら「余る」なんて考えは出ない。おおかた途中サボり組かな。

「この子たちはただの天使じゃない」

烏口骨を手に取り、くぼみがよく分かる向きにして関節位置を示してやる。

「二対四枚の翼をもつ智天使だ。見なよ、ほら、ここに二対目の上腕骨がくるんだ」
「ああなるほど!ありがとう、いや助かった」

お人好しな講師が休んだメンバーの分までいつも作業を肩代わりしていた姿を思い出した。やれやれ、これじゃあ何一つ勉強になってないじゃないか。サボる奴らは授業料を完成標本の代金にしか考えていないんだ。

溜め息まじりの深呼吸と共に窓の外を見やると、件の講師が次のクラス用に仕入れたらしい天使の死体を運んでいた。これから裏の墓地で野ざらしにするんだろう。

……六枚の翼。熾天使はレアだな。
せっかくだ、来期も参加するか。


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「どうすればいいの?」

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所感:
どうすればいいの?と聞かれて困るシチュエーションを探したら骨が出ました。標本は悪魔でもよかったのですが天使にしたのは好みです。

11/22/2022, 9:15:05 AM