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入道雲


空を見上げると、入道雲が広がっていて。
今にも雨が降ってきそうだ。

「なぁ、お前、傘持ってる?」

「ううん、無い」

「なんで、持ってねぇーんだよ。天気予報見てねぇーの?」

「そっちこそ。どーせ、お前も持ってないんでしょ、傘」

なんて。
溜息混じりの、彼の言葉に。
俺は待ってましたと言わんばかりに。
カバンから折り畳み傘を取り出してみせれば。

ちっさ、と呟いた彼に、また溜息を吐かれた。

「はぁ?なんだよ、それ。文句あるなら入れてやらねぇーかんな」

「そんなの良いよ。二人で使ったらどっちも濡れちゃうだけじゃん」

お前のだし、お前だけで使えば?
なんて、下駄箱で靴を履き替えた彼が、先に歩き出すから。

待てよ、と。
俺も慌てて、靴を履き替えて。
彼の後を追った。

今にも雨が降り出しそうな空だったけど。
まだ雨は降っていない。

「このまま、帰るまで降らなきゃ良いんだけど」

と、空を見上げた彼が呟いて。
俺が、だな、急ぐか、なんて。
会話をしていた時のこと。

あ、と彼が呟いたかと思ったら。
空から雨がポツポツと降ってきて。

そして、一瞬でザーザー振りに変わるから。
俺が傘を取り出した頃には、ずぶ濡れだった。

「走るよ」

そう短く言った、傘の無い彼はもっと濡れている。
それでも、なんてこと無さそうな顔をしているから

そんなお前を見ていたら、俺も何でも良いか、って気分になってきて。
走って揺れる折り畳み傘が邪魔に思えて、閉じると。

少し先を全身ずぶ濡れで走る、お前の後を追いかけた。

近くの屋根がある場所に着いた時には、髪も制服も濡れて、肌にピッタリとくっついているのが気持ち悪かったけど。

「急にこんな降るなんてね、びっくりした」

なんて。
髪を掻き分けて、あっけらかんと笑うお前を見ていたら。
俺も笑えてきて。

「何か、かっこいいな、お前」

と、思ったことを口にすれば。

「はっ?何、急に……」

と、俺から目を逸らす彼の頬が薄っすらと赤く染まっていて。

「……やっぱ、可愛いのかも」

「はっ?どっちだよ?」

ってか、もっと意味わかんない。
なんて、彼に脇腹に肘を入れられる俺だった。


                     End

6/30/2024, 12:44:05 AM