るね

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【まだ見ぬ世界へ!】




「ようこそ異世界へ。あなたにはこれから私が管理する世界に転生してもらいます」
 目の前に座った白いドレスの自称女神がそんなことを言った。

 俺は一体いつこんな場所に来たのだろうか。
 ここはどこかの庭園のように見える。こういうの『ガゼボ』とかいうんじゃなかったか。

 ああ……夢か。夢だな、うん。

「残念ですが現実です」

 いやいや、なんで俺が転生なんて。そういうのはキラキラした目の高校生でも連れて来れば良いのに。それか、疲れた会社員を救ってあげて。俺、どっちでもないから。

「あなたはあなただから選ばれたというより、あなたのお父様が理由で選ばれたんですよ」
「どういうこと?」

「あなたのお父様は私の世界を救ってくださった勇者様だったのです。それこそ、キラキラした目の高校生でしたね」

「…………は?」

 俺の父親はシングルファーザーで、ひとりで俺を育ててくれた。穏やかで真面目な人だ。それがまさか、異世界を救った元勇者?
「ああ……あなたは知らなかったんですね」

 あ、そうか。やっぱり夢だよな。うん、夢だこれは。

「いえ。残念ですが現実です」
「ちょっと待て。そもそも転生って、生まれ変わるってことだろ。今の俺の人生は?」

 自称女神は気の毒そうな顔をした。
「ご愁傷様です」

 嘘だろ、いつの間に!?

「覚えていないのですか……?」
「え?」

 急に記憶が蘇ってきた。
 確か俺は、父さんが実父ではなかったことを知って、ショックを受けて。頭を冷やそうと外に出て。目的地も決めずに歩いて……ああ、そうだった。

「交通事故に遭ったんだ」
「ええ、そうです」
「そっか。俺は本当に転生するのか……」

「あなたのお父様にはお世話になりました」
「でも。本当は父親じゃないって」
「いいえ。血の繋がりだけが親子ではないでしょう?」

「そう……かな?」
「そうですよ」

 なんとなくしんみりとした空気を払うように、女神がパチンと手を叩いた。

「とにかく。あなたのお父様にはお世話になったので、あなたへの加護という形で恩返しをしたいと思います」

 何か能力をくれるんだな。やはり剣と魔法の世界だろうし、戦う力は必要そうだ。
「どんな力をもらえるんだ?」
 俺は少しワクワクしながら聞いた。

「強い相手を惹き付け、好かれる能力です」
「…………は?」

「ですから、強い者から好かれて守ってもらえるという能力です」
「それ、俺自身は強くないってこと?」
「はい。そういうことになります」

「何か他の能力にしてもらうことは……」
「無理ですね。あなた自身に力を持たせようとすると、魂が負荷に耐えられません」
「そうなの!?」
 俺勇者の息子なのに!

 女神が俺の胸元に指先でちょんと触れた。
「熱ッ……!?」
 火傷したみたいな熱さを感じ、何をするのかと文句を言おうとした時。

「これで準備はできました。今度は長生きできるといいですね」
 女神がそう言って、俺をドンッと突き飛ばした。

「え? えぇ!?」
 目の前にあったはずの景色が消えて真っ白になる。
「ではどうぞ、まだ見ぬ世界へ! 楽しんできてくださいね!」
「うわあ!?」

 落ちた、と思った。強い落下感の後、気付いたら俺は森の中にいた。






 その後は。
 俺は狼に好かれ、巨大な山猫に好かれ、竜にまで好かれて、主と呼ばれた。

 なんのことはない。
 強い者に好かれる能力というのは、強い魔獣を従える能力で。俺はテイマーだったのだ。

 この世界はなかなかハードだが、従魔たちが守ってくれて、俺は楽しませてもらえている。




6/27/2025, 11:11:20 AM