失恋をした。
相手は、其れは其れは綺麗な女性なのだった。
花を摘んで、上質な織物を風呂敷に包んで、簪を選んで、さあこの想いを彼女に伝えようと―――した。するほぼ直前だった。
私が恋をした女性は、人間ではなかったのだ。
動物―――鶴だった。
よもや鶴に求婚する者などいやしないだろう。
欧州では、蛙に変えられた皇太子に接吻をする者もいると云うが・・・、なンとも、欧州文化は複雑怪奇だ。
私が吃驚仰天、大きな衝撃を受けたその日の夜―――私の枕元に、何者かの気配があった。
其れは、下記のことを云った。
「人間ではないからなんだと云うのです。彼女を真に想う気持ちがあるならば、生物種の違いなど些事であると、堂々と宣言してみなさい。」
私ははっ、となった。
とても大事なことを云われたような気がした。
そうだ。そうなのだ。
私は彼女を愛しているのだ。
だと云うのならば、人間だろうが鶴だろうが、些細な問題なのだ。
そうして、考えを改め直した私は、翌日、罠にかかって苦しんでいる彼女を救けたのだった。
(鶴の恩返し。前日譚)
6/3/2024, 12:29:31 PM