杢田雲

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雨の日は気が滅入る。
いや、そんなのは定型句だ。
曇りの日も、晴れの日だって俺の気は滅入っているのだ。

教室の窓から外を眺めている。
屋上から運ばれてきた雨水がざばざばとベランダの床に弾ける音がする。
「まだ帰らないのか?」
がら、と音を立ててドアが開いて、隣の席の青木が顔を覗かせた。
「先生、待ってるから」
驚いてぶっきらぼうな返事になってしまったが、青木は気に留めた様子もなかった。
「進路の紙? 職員室に持ってけば?」
手元にある進路希望票は白紙で、青木はそれに気付かない。
「音楽室が雨漏りしたから修理してくるって」
そこまで言うと、俺が用があるのは先生自身だということが分かったらしい。
青木は自分の机の横に掛かっている折り畳み傘を手に取って踵を返した。
「部室棟行こうとしたら傘忘れてんのに気付いてさ」
俺の視線をどう受け止めたのか、青木は恥ずかしそうに言った。
「止まない雨はないって言うだろ」
青木の言葉は突然で、俺はリアクションをしそこねた。
「あれ、ウザいよな」
意外だった。説教でもされるのかと思って身構えたのに。
「な。今降ってることが問題なんだよな」
俺は思わず笑ってしまった。
「先生、そういうこと言いそうだけど、気にすんなよ」
「あー、さんきゅ」
担任は気のいい男だが、一般論にまとめようとする傾向がある。
「じゃあ、部活行くから」
青木は来た時と同じくドアを鳴らして去っていった。
この雨が止むと、信じられるならば幸福だ。
人生にかかる雲、勝ち目のないように思える自分の境遇。
結局、雨と共に生きる決心が出来ないのだ。
いつまでも降り止まない、雨。

5/25/2023, 1:37:31 PM