ㅤ勝ち負けなんて関係ない、なんて嘘だよね。
ㅤ特別な椅子はいつだって一つしかない。
ㅤいちばんになれなきゃ意味がないんだ。
ㅤくずおれたあなたの向こうを、雲がすごい速さで流されていく。苦しげなあなたの嗚咽が瞬時に風に飛ばされる。
ㅤぽつりと垂れはじめた水滴を拭い、私は手を差し伸べた。
「帰ろう?」
ㅤ赤い目で鼻を垂らしたまま、あなたは私を見あげる。
ㅤそうだね、あなたの言う通り。勝ち負けなんてものは、何をしたって消えてくれない。
ㅤだからこそ私はいま、心から賞賛したくなるのかな。こんなにも純でこんなにも愛らしい人を拒絶して、勝ったつもりでいるらしい、可哀想な見知らぬ負け犬野郎のことを。
『勝ち負けなんて』
6/1/2025, 9:57:52 AM