ほろ

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「毎年言ってると思うけど、一年って短くない?」
あたしの言葉に、兄貴が顔をあげる。半分ほど読んでいた漫画をこたつの上に伏せて、大きく頷いた。
「毎年言っていると思うが、それは歳をとるとさらに早くなるぞ」
「げー……やだなぁ」
「だからこそ、毎日を無駄にしないように過ごさねば。短い一年が積み重なれば、やがて短い一生に辿り着くのだから」
それはそうだけどー、とあたしは皮を剥き終わったみかんを口に放り込む。うん、今年のみかんは甘いな。って、これも毎年思っている気がする。
「てか、最もらしいこと言ってるけど、兄貴が一番毎日を無駄にしてるから」
「どこがだ?」
「ソシャゲ周回にSNS徘徊、実況動画の無限リピート再生……それで半日を溶かす人に、無駄にするなと言われても、ねえ?」
「無駄じゃないだろう! 全部俺の人生には必要なものだ!」
何やら叫んでいるが、あたしには無駄にしか思えなかった。だって、今伏せている漫画、多分十回は読んでるもん。去年も同じタイトルの漫画読んでたもん。
家族って血が繋がっているだけの他人だとどこかで聞いたけど、まったくその通りだと思う。あたしは多分、兄貴の趣味嗜好を一生理解できない。
「大体、漫画とは教訓も多く含まれる第二の教科書で──」
「あーはいはい、分かった分かった。あたし、お母さんのこと手伝ってくる」
「こら! まだ話が途中だぞ!」
なんだか似たような会話を前もしたような、と考えて苦笑する。結局人って、一年やそこらで劇的に変わるようには出来ていないらしい。
また来年も今年と同じ会話をするのかなぁ、とキッチンに向かいながら、あたしの頭の中では、恐らく無駄だっただろう一年が再生されていた。

12/30/2023, 3:18:46 PM