霜月 朔(創作)

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春爛漫



気が付けば、春爛漫。
一面に、春が咲いていた。

枝の先は薄桃色に染まり、
柔らかな陽の光を浴びて、
まるで俺を嘲笑うかのように、
無邪気に微笑んでいた。

ここには、
爽やかな風も、
甘い花の香りもあるのに、
何故か、心だけは、
冷たく凍りついていて。

逃げようと走っても、
この季節は終わらない。
華やかな色を纏った世界が、
ただ、眩しくて、苦しくて、
俺を苦しめるんだ。

柔らかな春風に乗って、
君の声が聞こえてくる。
だけど、君はいつだって、
皆の真ん中にいるから、
遠くから見詰めることしか、
出来ないんだ。

例え、君を求めたとしても、
差し出されるのは、きっと、
友情という、
優しくも残酷な感情。

俺の想いはずっと、
届く場所も分からず、
春霞の空を彷徨っている。
それでも、
忘れることが、出来ないんだ。

春は、
こんなにも、騒がしいのに、
こんなにも、静かだったなんて、
知りたくはなかったのに。

春爛漫。
この鮮やかな景色の中で、
今年も変わらず、何度でも、
ただひとり、君を想う。

3/28/2025, 6:51:14 AM