螢火

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花が羨ましい。「幸せ」に花は必須。
蕾の時は生まれてくることを楽しみに待っていてくれる人がいる。大切に育てられて、毎日欠かさずお世話してもらえる。道端に咲いていても、束になっていても、なんなら枯れていても綺麗と言われて、そこに存在意義を見出してもらえる。そこにただ存在するだけでみんなの視界にはいれる。

私の横には必ずいつも花がいる。その花は男の子からも女の子からも、私の親含めた大人たちからも愛でられている。主役はいつも私の隣の花。にこりと笑うだけで周りの人達はすぐに虜になってしまう。その魔法、私にもちょうだい?私は光と影なら影。もしかしたら影になれた方が楽だったのかも。私は影という闇に隠された雑草。誰の視界にも入らない雑草。入ったとしてもきっと次の瞬間にはみんなの記憶から消去されるただの風景。

両親は私に「笑顔でいなさい」と言う。笑顔でいないと近寄り難いんだって。睨んでいるように見えるんだって。友達はSNSに私との写真をあげたがらない。トイレでそう言っているのを聞いたの。きっと私がいるとレベルが下がっちゃうから。だからほら、友達が稀にあげた私との写真は写りの悪い私の顔に加工はない。でもその子の顔には華やかな加工がいっぱい。ハートもいっぱい。クラスの男の子たちは私に順位をつけなかった。きっと私の顔は平凡だから順位付けは難しいんだ。そして1位はやっぱりあの子。あの綺麗な花。羨ましい。ひまわりみたいなあの花が羨ましい。あの花は賞賛という肥料をもらってさらに綺麗に輝く。

綺麗な花は自信もある。だって「余計なことをするな!」なんて怒られたことないもの。自分がやった行動は全て相手が喜んでくれるとわかっている。相手が喜んでくれる行動を知っている。だからみんなに愛される。でもそこで傲慢にならない綺麗な花は、さらにみんなに愛される。他人を見下さない、でも下手に出るわけではない。完璧な綺麗な花。

綺麗な花は私にも微笑む。その笑顔はまるで大きく花弁を開いたひまわりみたい。あの子に言わせれば、
『「雑草」なんて植物はないのよ。みんなそれぞれに名前がついていて、それぞれに特技があるの。例えばドクダミは日当たりが悪い所でも育つから雑草としていろいろな所にいるわ。でも実は薬草としていろんな用途で使えるの。だから花言葉は「自己犠牲」かっこいいでしょ?』
その花は振り返って私にまた笑顔を向けた。
「でも私はドクダミよりひまわりになりたい。だって王道で綺麗で、いつも太陽と仲良し。例え役に立たなかったとしてもきっと綺麗だと褒め称えられるんだもの。」
綺麗な花は『たしかにあなたはひまわりっぽくはないかも』と笑った。
「うるさいなぁ。綺麗な花が似合わないなんてわかってるよ」
『ふふ、そういう意味じゃないけどね。私もひまわりになりたいなぁ』
「えー?もう既にあなたはひまわりよ。だってかわいくて、みんなに愛されていていつも存在感があってかっこいい。みんなあなたのことが好き」
そう言ったら綺麗な花はちょっと困ったように笑った。なんでだろう?褒められ慣れてるはずなのに。お世辞じゃないよ。

綺麗な花はある日私に聞いてきた。
『ねえ、ひまわりの花言葉を知ってる?』
「んー知らないなぁ。『明るい』とか?」
『ふふふ、単純』
「だって知らないんだもん。教えて?」
『んーやっぱり内緒!知りたいなら自分で調べなさ〜い』
「ええ〜そこまで言ったのにー?」
前を歩く綺麗な花はこちらを振り返って楽しそうに笑った。

綺麗な花は今日は私に突拍子もないことを言ってきた。
『あなたはひまわりというより太陽ね』
「からかってるの?私が太陽なわけないじゃん。別にみんなに好かれてるわけじゃないし」
『あら?太陽だからってみんなに好かれるわけじゃないでしょ?だって夏場、あなただって太陽に「余計なことするな!」って怒ってたじゃない』
「えー辛辣〜。私褒められる流れじゃなかった?」
『ふふふ、ごめんなさい。悪い意味じゃなくて、本当に思ってることよ。あなたは太陽だわ』
「あなたは相変わらずひまわりよ」
綺麗な花はこちらに照れくさそうに笑顔を向けた。
最近の綺麗な花はよく分からない。突然花言葉を聞いてきたり、からかってきたり、そうかと思えば褒めて?きたり。


綺麗な花に次の日「ひまわりの花言葉調べたよ」と伝えた。
綺麗な花は照れたように笑う。
『由来も調べた?』
「うん。ずっと太陽を見てるからって。」
『やっぱり私はひまわりになりたいわ』
「だからもうあなたはひまわりじゃん」



綺麗な花は赤い顔で黙ったまま。
伏せた睫毛がきらきらしてる。




綺麗な花とさっきから目が合わない。
合わせようと思っても綺麗な花は目を逸らしてしまう。
「私だけを、見つめてくれるんでしょ?」



細くて白い手から、指から体温が伝わる。
私のひまわりは結構体温が高いみたい。




やっぱり幸せに花は必須。















------------------私はあの子の太陽。


『幸せに』

4/1/2024, 8:29:48 AM