【形の無いもの】
インテリア、洋服、はたまた食事まで。私の生活の全ては君から供されるもので成立している。巨万の富を有する君が、私の好みに合いそうなものを必死に考えて買っている姿は、こう評して良いのかはわからないけれどなんだか微笑ましい。
……愛の与え方がわからないのだと、かつて君は言った。道に迷った子供みたいな、ひどく頼りなく揺れる瞳だった。
「だって愛なんて形の無いもの、どうやって渡せば良い?」
苦しげに吐き出した君のことを抱きしめたあの日の温度が、私に君を愛おしいと思わせた。だから私は今でも、君の元に留まり続けている。人に縛られるのが大嫌いな私が、私の血肉を君に塗り替えさせることを許容した――それがどれほど特別なことなのか、きっと君はわかっていないのだろうけれど。
形の無いものこそ尊く美しいなどと人は言う。でも私は、有り余るお金で君が買い与えてくれる即物的な品々をこそ、とても素敵だと思うんだ。だってこれは君が私を繋ぎ止めたくて懸命に努力している、その目に見える証だから。
アクセサリー箱に並んだ宝石たちを見下ろす。形のある無数の品々に込められた、形の無い確かな君の愛。それを慈しむように、私は君から昨日贈られたばかりのダイヤのイヤリングをそっと自分の耳へと当てがった。
9/24/2023, 9:58:26 PM