あじゅ

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「離れていても、心は一つ」みたいな、気休めの言葉が大嫌いだった。手に入れては失って、出会っては別れた。短い触れ合いは、情を持てば持つほどに毒となって身体を蝕む。親の転勤だなんてどうしようもない事に、一体どれ程の苦しみを味わえば良いのか。
新しい学校。新しい仲間。知らない場所なのに、見知った場面。今回はどれだけの間居られるのだろうか。不安なんてない。どうせ一時的に所属するだけの空間で、良いも悪いも関係ないんだ。
「そう、思ってたんだけどなぁ…」
転入して半年、親友が出来た。そう、出来てしまったのだ。表面的な付き合いだけしようと、常々思っていたはずなのに、だ。押しが強くて、無神経で、その上無遠慮でお節介。お調子者で、馬鹿だが運動神経の良いあいつと、外面ばかりで、頭は良いが運動のできない僕。凹と凸が噛み合うような、パズルのピースがぴったりはまるみたいな、そんな存在。ほんの少ししか一緒にいなかったくせに、隣にいないのが考えられなくなっていた。
それから、たった3ヶ月でまた引っ越しが決まった。もう何年前か、幼かったあの時みたいに泣いてしまった。1年にも満たないあいつとの生活が、こんなにも大きくなって、僕を包んでいた。
あれからもう、随分とたった。結局、僕らは離れ離れになったんだ。たった9ヶ月間の交流は、僕の心に穴を開けるのには充分だった。それからもう、あいつには会っていない。連絡もとれない僕らに、出会う機会もなかった。大学を出て、会社という新たな場所へ旅立つ今、あいつは何をしているのだろうか。
「元気かな、あいつ」
早咲きの桜が、静かに揺れていた。

4/10/2025, 5:24:15 AM