【愛言葉】
相も変わらず大量の書類を机の上へと積み上げたあなたの前、応接用のソファに腰掛けて優雅に一人でティータイムと洒落込む。まったく、この国は国王の承認が必要な案件が多すぎる。制度を改革しろといったい何度忠言したかは、もはや覚えていなかった。
色濃い隈を目の下に作ったあなたの口から小さく漏れた溜息。それを無視してティーカップを傾ける。うん、やっぱりこの茶葉が一番美味しい。
ふと感じたあなたの視線。それでもあなたが口を開くまで、私からは口を出さないと決めている。手伝おうかと言いたくなる気持ちをグッと堪えた。
「……助けて、くれ」
今にも消え入りそうな声が囁いた。ことりと音を立ててティーカップをソーサーへと置き、勢いよく立ち上がる。
「はあい。いくらでも手伝いますよ、王様」
人に頼ることが絶望的に苦手なあなたの、それが精一杯の縋り方。私とあなたの間でだけ通じる合言葉。あなたが私を信頼し愛しているからこそ向けてくれる、特別な言葉だ。
不器用で責任感だけが馬鹿みたいに強いあなたの頬にそっと口づけを落として、私は机の上の書類に手を伸ばした。
10/27/2023, 6:24:52 AM