病室(正解のない選択)
行くか行くまいか大いに悩んで、顔を見たらすぐに帰ればいいとお祝いを包んでわたしは病院へと足を運んだ。
幼い頃からの親友と顔を合わすと、嬉しい、ありがとう!と彼女はわたしの訪問を心から喜んでくれて、明日退院なのと幸せそうに語ってくれた。
―――小さなベッドに横たわる、小さな命。
ふくよかで元気に動く彼女の子は、何の問題もなく健康そうだった。
「明日から実家生活よ。一ヶ月くらい」
「うんうん、出産の疲れを癒すにはやっぱり実家だね」
「帰ってきたらまた遊びに来て。いつでも待ってる」
結婚を期に退職し、子供が産まれ、これから新しい生活を歩んで行く彼女。
片や仕事にやり甲斐を見出し、恋愛とはまるで無縁の生活の中を歩んでいるわたし。
道を違えたと確定するのはさすがに年齢的にも早すぎるけれど、この時点で見据えている未来は、お互いに全くの別方向を向いているのは確かだった。
他愛ない会話を交わして、わたしは無理せず大事にしてねと病院を後にする。
………恋愛して結婚して。
退職せず産休を取り、子供と仕事のバランスを旦那になる人と二人で分担しながら、自治会と学校の行事に参加して。
学費の工面をし、老後に備える。
理想はこれ。
………。できる………のか?
考えると薄ら寒くなるのはなぜだろう。
わたしの覚悟が足りないのだろうか。
「そもそも初手の恋愛をする、でもう躓いてるんだけども」
………ああ、早くももう詰んでしまっている。
どうにも未来の見えない、不透明さを目の当たりにしてわたしはただただ凹んでしまう。
仕事と恋愛、どっちを取るの!?
―――昔よく言われた、頭の足りない二進も三進もいかないような二択を、今は世間から迫られているような気がして仕方がない。
「だったらわたしはもう、諦めて」
期待に応えられず、匙を投げられても構わない。
どう転んでもなるようにしかならないのだ、と半ば自棄になりながら、わたしは無理矢理自分を納得させた。
END.
8/3/2024, 6:35:28 AM