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「あいし……」
そこまで言って口を閉ざした。最後まで言えば取り返しがつかないのではないかと心がもたついた。
その言葉の続きを今かと期待して目を輝かせる彼女の奥では、排水溝のネズミがのたうち回っていた。
「あー、えっと、ごめん。今日はもう帰ろうか」
結局ぼくは、恋人たちのあいことばを言えないまま代わりにそう口走る。
彼女は呆気にとられた顔をして、少し怒ったようすで
「うん」
とだけ応えた。
すずしい秋の夜風がぼくらを分かつ。
愛に言葉が必要だとしたら、僕には到底不可能な気がした。駅のホームで控えめに手を振る彼女を見送って、そんなことを考えていた。

愛してるを言えなかった彼女とは、2日後に別れた。

10/26/2024, 2:37:10 PM