たやは

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衣替え

9月の中旬になると娘の高校の制服をクリーニングに出さなければならない。

10月は衣替えだ。

私が高校のときはセーラ服だったため、衣替えは白い薄手のセーラから黒い厚手のセーラに変わる。衣替えの時期とは言え、暑くて暑くて大変だったのを覚えている。
娘はブレザーのため衣替えの時はカーディガンを着て学校に行っており、それほど暑くはないようだ。

10月の晴れた朝、衣替えの済んだ子供たちが家の横を通り過ぎ、楽しそうに話しながら登校して行く。

ふと見ると手に赤切れができていた。赤切れができる季節になってきたのだ。季節の移り変わりは早く、家で父の介護を始めてもう2年になる。炊事に洗濯、掃除に寝たきりとなってしまった父の介護、全てを1人でやっている訳ではないけれど、時々どうしょうもなく暗い気持ちになる。
聡明で優しかった父も今は人が変わったように怒鳴りちらす。私だけならまだしも、介護に来てくださるヘルパーさんたちにもだ。
ヘルパーさんたちは仕事ととは言え、優しくニコニコしながら受け流してくれるが、私は全てを受け流すことはできない。

「娘さんたがら甘えてるのよ。」

ケアマネジャーさんはそんな言葉をかけてくれくが、怒鳴り散らす父を怒鳴る私がいる。

あ〜。辛い。

介護を辛いと思ったら長く続けるのは難しいと言われた。全くその通りだ。もう、無理かもしれない。


「ただいま〜。お腹すいた。ご飯!」

呑気な娘の声がなおさら癪に障る。娘を睨みつけて小言の1つでも言ってやろうかと思った時、足元で猫のトラ吉が私の足に頭を擦りつけながら「ミィ〜」と鳴いた。
お前もご飯の催促か。なんか嫌味を言う気も失せた。

「はい。はい。ご飯ね。トラ吉の分もね」

キッチンへ向かう私。「ミィ」「ミィ」と鳴きながら後を付いてくるトラ吉。

「お母さん。顔怖いよ。ほら、トラ吉も心配してる。おじいちゃんのことで大変なら言って。私もできることはするから。」

娘からの思いがけない言葉に娘の方に振り向いたまま動けずにいた。

「何よぅ〜」

「だって〜、あんたにそんなこと言われるなんて思ってなかったから。お母さん。嬉し〜。う〜。トラ吉もありがとう〜。」

涙が溢れ出て持っていたタオルで顔を押さえた。嬉しかった。娘が私の辛さ分かっていてくれたことが、本当に嬉しかった。
自分だけではできないと思いながらも、自分の父親の介護だから私がやるのは当然だと1人で背負っていたのかもしれない。
ヘルパーさんだけでなく、家族にもっと相談していけばいい。できることを手伝ってもらえばいい。こんな簡単なことにも気がつけなくなっていたのだ。

夕食を美味しそうに食べる娘とトラ吉。優しい1人と1匹を眺めながら、心が温まる思いがした。
衣替えとともに秋が深まっていく。

10/22/2024, 8:57:37 PM