「なんで、こんなふうにきみにはなんでも話せちゃうんたろうね」
隣を歩く先輩がちょっとはにかみ気味に言った。
「きみの前だと俺、素直になれるよ」
そんなこと言うくせに。私は先輩の1番にはなれない。なんてひどい言葉を言うんだ。でも、私の気持ちを知らないから、責められやしない。
「きっとそういうオーラが出てるんだろうな。ほら、神崎さんって気づくといつも誰かに囲まれてない?」
「そんなことないですよ」
「みんなきみに癒やされてるんだよ。セラピーみたいな?」
「いやいや……」
こんなにも褒めるんなら、私のことをもっと知ってくださいよ。声にならない私の声。表現できない私の気持ち。この人の前ではずっと透明なまま。誕生もしないから消滅もしないのかな。じゃあどうやってこんなモヤモヤから抜け出せばいいの?手放すには、どうしたらいいんだろう。透明な見えない鎖がずっと私の身体に巻き付いている。こうやって先輩と下校するたびに重たい鎖になる。後戻りできないぞって、言われてるような。
「お陰で前向きになったからさ、お礼に奢るよ。コンビニ寄ろう?」
「あ、はい。ありがとう、ございます」
言えない気持ちがまた、私の中で肥大してゆく。いつかは、成長しすぎて破裂して粉々になるんだろうか。分かっていてもどうにもできないのが苦しくて。今日も何も言えないまま、まるで恋人同士のように並んで歩く私達なのだ。
5/22/2024, 8:17:14 AM