枯れた紫陽花

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【初恋な鬼と厄介な少女】

「一重積んでは父のため」

「二重積んでは母のため〜...なーんて」

テンプレだよね〜と少女は笑う。
ここは賽の河原。親を残して亡くなった子供が行く地獄のはずだ。子どもらは、朝6時間、夜6時間、石を積み仏塔を作る。そうして、我ら鬼がそれを壊していく。そういう地獄なのだ。


「なあ、お前さんや。お前さんは、どうして死んじまったんだい?」

退屈そうな鬼は、暇を紛らわすため少女に尋ねた。
少し、少女のことが知りたい気持ちもあった。

「うーん…私のお母さんさ、なんか情緒不安定?でさ〜…。たまたまあの日、機嫌悪かったらしくってさ。雪だったんだけど、ベランダに出されてそのまま」

少女は気まずそうに眉を下げて笑う。
鬼は少しやっちまった。と思ったが、会話を続ける気なのか、ドカンと座り喋り始める。


「だがしかし、そういう理由ならば、新たな人生を選ぶかどうかって神さんに聞かれなかったかい?」

「どうしてわざわざ地獄なんかを選んだんだい?」

鬼は、いかにも不思議です、と言うように首を傾げて質問をすると、
少女は目を逸らし、口を開き

「えぇ〜…結構グイグイくるね、暇なの?」

「まあ言うけどさ〜、なんか…新しい人生とか、そういう気分じゃなかったっていうか〜…」

それは図星だったが、言いよる。と鬼が石を崩すと「あー!自信作だったのに」と少女はけたけた笑う。
地獄だなんて感じさせないような、ほのぼのとした空気だった。

「なあ、でも、お前さんや。お前さんは、もうこっちにきて3年も時が経つだろう?
もう、新しい人生を歩まなくてはいけないんだよ。」

わかっておくれ。と鬼は言い、少女に四つの石を渡し、

「さあ、これを積んでおくれ。父親の分、母親の分、兄の分、祖母の分。そうしたら、僕はもう石を崩さないよ。」

鬼だって初恋の相手と離れるのは悲しいのだ。初めてそれを言う日の前の夜はそれはもう泣いた。だが、何回言われたって新しい人生なんて御免な少女は
めんどくさそうに鬼に詰め寄り、抱きしめ、耳元で囁いた。

「ねえ、おにさん。わたしね、新しい人生より、おにさんがいるここの方がずぅっとすきなの。…だからね、おねがい。まだ」

終わらせないで


少女は、幼さを残しながらも、妖艶に笑った。

11/28/2023, 6:14:51 PM