【お題:君と紡ぐ物語】
レークスロワという大陸は物語だ。そのため、登場人物には何らかの責が負わされている。
負わされた責が能力として、可視化するのだ。
「干渉」
空に向かって手を伸ばし一言。
目の前には、所謂近未来的な青く透明度の高い画面と、白文字の羅列が現れる。
僕、シエルが世界から負わされた責は、干渉。
レークスロワという、プログラムを書き換える能力。
破壊のようにあったものを無くすでもなく。
拒絶のように、あったものを無かったことにするでもなく。
ただ、現状を変える、書き換え別物として置き換える能力。
一見万能そうには見えるが、できないことも存外多い。
例えば、今目の前にいる兎から僕が逃げることは叶わないのだ。
「シエル? 妙な事を考えてませんか?」
「……いいや?」
眼鏡のレンズ越しに見える、紺色の瞳は細められ、神経質そうな外見に険しさが足される。
黒いうさぎ耳はピンッと立ち上がり、一言一句聞き逃さないと言いたげだ。
この世界には様々な種族がいるけれど、彼ら獣人という種は特殊である。
番、という本能的に自らの伴侶と求める存在がいるからだ。
とはいえ、獣人自体の数が非常に少なく、自らの国である、桜華國から出てくることがないので、この世界じゃ、あまり知られていない。
それこそもっと昔、どのくらいだろうか……神代に近い頃は、獣人の数は多かったと言われているが、彼らは迫害にあい、その数を減らしたという。
そのため、桜華國でも、人間と獣人が治める地は明確な線引きがあるし、仲はあまりよろしくない。
そんな中、なぜ彼、燼兎くんが国から出ているかと言うと、単純に柱達に喧嘩を売ったからだ。
いや、彼は弟のことを想えばこそであり、喧嘩を売ったつもりは微塵もないのだろうけれど。
……まぁ、そもそも彼は人格に大変難があるので、弟が柱側に付いた時点で何らかの対策は練られただろうけれど。
そんなことをつらつらと考えていたのが悪かったのか、ゴスッと、頭に手刀が落ちてきた。
「燼兎くん?」
「貴女はもう少し、私の番だという認識を持ってください」
「兎は寂しいと死んじゃうんだっけ?」
「……そうですね」
今、ちょっと言葉に間があったな。自分は別に死にはしないけどって思っただろ。
そもそも、政略とはいえ、婚約者を邪魔だったという理由で殺害した彼に、繊細な感情は無縁だろうに。
「全く、行きますよ、貴女をこの世界に馴染ませなきゃならないんですから」
「ごめんって。代わりに僕達のこの旅は、記憶の図書館にすら記載されないんだから許してよ」
スタスタと先へと進んでしまう彼に、小走りになりながら、語りかける。
僕達二人旅が、誰にも共有されないと聞いた燼兎くんは、振り向きこそしないが、機嫌良さげにその耳が揺れた。
確かに干渉は万能ではない。でも、知識から隠すことくらいならできる。
少しくらい、管理者の管理外になっても構わないだろう?
これは、僕と君とで紡ぐ物語。
長い長い物語の、分岐の始まり。
ーあとがきー
君と紡ぐ物語ということで、当初は、司書、エルちゃんとアインくんにしようかと思ったのですが、ただの日常回になりそうだったので、シエルちゃんと燼兎くんにしました。
シエルちゃんが、レークスロワに来てすぐ、アインくんと一悶着ありまして、彼らから隠れて色々行動していたって背景がありまして、その旅の道中です。
語り部達の関係図があまり出せなくて、敵なのか?となるかもしれませんが、それぞれは敵でもなく味方でもなく、という立ち位置です。
一応それぞれ、柱、十王、記憶の図書館、主にこの三つのグループに属し、どことも交流がある、又はどことも交流がない方は無所属という振り分けができます。
今回であれば、シエルも燼兎も無所属になりますが、柱寄り無所属の扱いです。
短編によく登場する、憖さんは記憶の図書館寄り無所属。
基本的には無所属が最も多く、関係が深いグループに寄るというイメージ。
今回存在だけ出てきた、燼兎くんの弟さんは柱グループに属します。
彼の話は出せるだろうか? 燼兎くんが語り部になったら出せるかもしませんね。
では、今回はここまで。
また、どこかで。
エルルカ
11/30/2025, 8:18:06 PM