霜月 朔(創作)

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夢を描け



静かな夜。
雨音に足音を隠して、
貴方の部屋を訪ねる。

貴方は私の事を、
求めはしないけれど、
拒みはしないから。
夜の闇に紛れて、
貴方に口付け、抱き締める。

私の温もりに抱かれて、
貴方は少しだけ、
仮面の下を覗かせるけれど、
私が告げる愛の言葉を、
貴方は見ない振りをする。

まるで、
存在しない約束を、
無言で突き返すように。
その溢れる吐息さえ、
飲み込んで。

そして、
熱を帯びた吐息の隙間に、
とても淋しげな瞳で、
私を見つめて、言うんだ。
『過去を捨て、夢を描け』
…と。

夢を描け、だなんて。
貴方だけには、
言われたく無かった。

だって。
どんなに、
貴方のいない、
未来を描こうとしても、
私には描けなかったんだから。

だから、私は、
何度も貴方を抱く。
言葉を飲み込んだまま、
乾いた口唇に、口唇を重ねる。
せめて、温もりだけでも、
私を望んでくれたなら。

貴方は拒まない。
でも、求めない。
私と愛し合った過去も。
私と戯れるだけの今も。
私と共にいる未来も。

私には…。
貴方の居ない夢なんて、
描けないのに。

5/10/2025, 8:05:30 AM