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◤放課後◢

「先輩、好きです」
廊下の一番端、去年先輩が通っていた三年生の教室。部活終わりに隣のクラスでもあるそこに忍び込んで、後ろから三番目の窓際の机を撫でる。
一年前には先輩が座っていた場所。机の入れ替えもされていないから、これがまさに先輩の使っていたものだ。
「あの時、言えばよかったな」
卒業式の数日前、二人きりになった瞬間があった。でも言えなかった。先輩の心が、自分に向いていないことを知っていたから。
それでも伝えればよかったと、会えなくなって何度も後悔している。
「……好きです」
もう一度口にしてみる。
静かな教室で消えるだけの言葉。
――の、はずだった。
「今、好きって言ったか?」
今日に限って開けっ放しになっていたドアの先に、いつの間にか人がいた。
「っ……聞いてた……?」
「はっきり」
なんてことだ。顔から火が出そうとはこのことだ。顔どころか全身が熱い。
いやでも今はもうここは先輩の席じゃない。想い人が誰かなんてわかるはずがない。
「……これはさすがに、予想外だったな」
「え?」
呟くように言いながら近づいてくる人影。隣のクラスの――見たことはあるけれど、名前はわからない。
異様なくらいに体が近づいて、思わず背を逸らせる。
「……んっ」
唇と唇が、触れた。
「えっ……、……え?」
「俺の席撫でてたってことは、そういうことだろ」
今キスしたばかりの口元が微笑む。
つまり現在この席を使っているのがこの人で、勘違いさせてしまったということか。
いやでもそれにしても、ほぼ初対面の相手にいきなりキスだなんて。
いったいどういうつもり――。
「俺も、一年の時からずっと好きだった」
嬉しそうに弾む声と共に抱きしめられる。
どうして。
こっちは名前も知らないくらいの相手なのに。
「これからよろしくな」
……耳元に聞こえてくる心臓の音が速くて、こっちにまでうつってしまった。

10/12/2023, 2:13:31 PM