蜩ひかり

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 お元気ですか。明日は冬が降ってきて、咲きかけの春を散らしていくようです。
 貴方が其処に立っているだけで、春が貴方を避けて通るみたいだ。散ってしまった花弁で埋まった道を振り返りもせず、貴方は空を背に咲き誇った花だけを見上げて、綺麗だねって健気に笑うんだろう。その大樹のいのちを育んだ雨がすべて貴方の涙だったとしても。

 春はなぜ逃げるのですか。風はなぜ助けるのですか。純粋なものと真正面から向きあうことはそんなにも辛いことですか。春、卑怯者、あなたは昔から柔和な顔をした獣のままだ。運んでくるより連れ去っていくもののほうが多い、すり減った誰かの隙間はいつも満開の桜で切り貼りされていて、わたしたちはいつでも其処に本当は何があったのか見失ってしまうけれど。

 貴方が咲かせた花を見るのはいつになるだろう。
 貴方の涙が咲かせる桜は青いかもしれないから、いつかその花をこの目で見る日まで、わたしは風のなかにいる。
 春風が出ていけと煩い。聞こえない。聞こえない。わたしの扉を勝手に叩くな。

(春風とともに)

3/31/2025, 6:10:16 AM