いとだま

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あなたが落ちてくれさえ、するのなら

  季節外れな、でも綺麗な花火が地面に咲いた。ひゅーと落ちて、どんっと散った。
 私はそれを見下ろしていた。突っ立つ私の周りで微かに蠢いていた澱んだ夜の空気が、花火が散ったのと同時に滑らかに動き出してどこかへ消えていく。これで私は他と同じになって、また健やかに生き始めるだろう。
 ふと、腕時計を見る。夜闇に溶けた針を目を凝らして見つけ出すと、もう夜はそれほど残されていないとわかった。私は屋上の縁に立ったまま、欠伸をする。眼下遠くに見える赤が月明かりに照らされて素敵だった。
 にわかに風がやってくる。後ろから私の背中を押すみたいにやってくる。落ちるのも嫌なので、私は屋上の縁から離れ、それから服についた皺を手で伸ばした。もうここに用はない。私は鉄でできた重い扉に近づくと、その内側の鍵穴にしっかりと鍵を挿す。少し風が強いのが不安だが、自然に扉が閉じることはまあ、ないだろう。
 私は屋上を後にした。

6/18/2023, 2:07:27 PM